感性思考で経営を!

前回、「ビジネスとアート」というコラムを書いたが、同様の傾向としてMFAへの注目がある。MFAとは「Master of Fine Art( 美術学修士)」の略である。米国ではMBAをとった人がMFAも取るケースが増えているそうだ。これは、近代的な経営には芸術の素養が必要であることを物語るものだ。まさに「ビジネスにアートを」という傾向である。

今の経営は理系の発想[1]だけではダメで、感性的な視点も加味して経営判断なり戦略なりを立てなければならない、と言われる。 世界的にモノが売れなくなってきた時代に、感性が重要な訴求ポイントである。

昨今は、コモディティー化が顕著である。このジレンマから抜け出すためにも、モノ・コトづくりに「感性」を注入することがカギとなる。デザイナーにこれを言うと『当たり前じゃん。だから自分達も頑張っている。』と言われそうだが、ちょっと違う。狩野モデルでいうところの「魅力品質」を高いレベルで実現することを意味している。従来の制約の中で良いデザインを行なっても、それは"良いデザイン"というだけで、コモディティー・トラップは打破できない。

さらに開発プロジェクトの問題もある。デザインの価値をデザイナーだけが分かっていて、他のプロジェクトメンバーはそれが理解できないという場面がよくある。組織の領分を侵さないということか。とにかくデザインはデザイン部門に任せる、という人任せな空気は良くない面もある。スチーム[1]の組織では、経営者自らがデザインの目利きである。MFAを取ったプランナーやエンジニアがデザインについて意見を言う場面が出てくる。ちなみに、AppleのCDO(Chief Design Officer、最高デザイン責任者)であるジョナサン。アイブ(Sir Jonathan Paul Ive)氏もMFAを取得しているそうだ。

確かにデザイナーは「美」とか「創造性」に敏感だし、これらの素養を持つことが良いデザイナーになる必須条件である。しかしモノ・コトづくりはデザイナーだけで行うものではない。UXデザインのように、デザイナー以外の様々な人が関与するモノ・コトづくりにおいては、皆が「感性思考」を養わなければならない。デザイナーが唱える価値を正しく理解できなくてはならない。それが冒頭にあけた、"MFAが注目される"ということに帰結する。
「感性」と「感覚」は似ているが少し違う。「感覚」は直感的であり「皮膚感覚」というように反射的でもある。従来からデザイナーが備え持っている美的感覚である。一方「感性」は、記憶や知識や経験と相まって認知的に得るものである。つまり知的なものなのだ。

極めて感性的なものに「俳句」がある。俳句の「季語」は感性そのものだ。例えば「風鈴」というと8月(夏)の季語だが、逆に8月と言ったとき、それは単に「夏」を指すにとどまらず、「あの忌まわしい悲惨な戦争の終結」とか「原爆霊」などをも伝えることになる。どのような感性で何を伝えたいかが重要なわけだ。そこには作者の思いがあり、受けての解釈がある。"思い"の表現も、"解釈としての発想"も「感性」の成せるワザだ。

話がそれたが、今、感性思考ということについて書いている。感性思考デザインが今後ますます重要なものとなる、という内容である。感性思考デザインを行うことで、コモディティー・トラップも打破できるであろう。


"photo723k405art"さんのインスタグラムより引用(https://www.instagram.com/p/Brq0DCwlk5K/

参考情報
[1] SienceのS、TchnologyのT、EngineeringのE、MasmaticのMをとって、STEM(ステム)と言われる。最近ではこれにArtを追加して、STEAM(スチーム)が大事であると言われている。「世界が注目する「芸術のチカラ」より > https://www.kyoto-art.ac.jp/t-blog/?p=89628