調査グループがリードする「ユーザ コミュニケーション」
Published by 松原幸行,
更新:2019/12/27
何か新しい事を始めたいと思い、ボケ防止も兼ねて5月から「編み物」を始めた。早速「財布」を作ってみたが、作りながら、ユーザーの視点と開発者の視点であらためて"モノづくり"について考えたのでお話しする。
モノづくりには「顧客の理解」が欠かせない。だが、顧客を理解さえすれば良い(タスク終わり)ということではない。それは、ユーザー要求に100%かなうものが常に作れるとは限らないからである(むしろ難しい)。ユーザーと良好な関係を保ち期待を裏切らないためにも、調査グループが「ユーザーコミュニケーション」(ユーザーと直接行うコミュニケーション)を継続することが大事である。そしてそれは、ユーザー要求を理解するフェーズだけでなく、設計がスタートした後と、ユーザー要求に合致しない部分が判明した時点、導入後の3つで重要となる。
*ユーザ コミュニケーションのタイミング:
- 顧客を理解する段階(従来からあるタスク)
- 設計がスタートした後
- ユーザー要求に合致しない部分が判明した時点
- 導入後
今回の編み物のように自分で使うものを自分で作る場合で「調査」に該当するものは,"何を作りたいかの自問自答"である。
今回編んだ財布の場合は、まぁ興味本位で始めたわけだから、どういう財布が作りたいかのビジョンは明確では無かった。最初、漠然と2つ折りの財布が欲しいと思ってはいた。ところが、半分作ったあたりでかなり厚くなってしまうことが分かり軌道修正を余儀なくされた(まだ細編み[1]しかできないということもある)。そこで、2つ折りは止めて、単純な袋型にした。結果的に自作した自己満足だけでなく、皮の財布などに比べてかなり軽いとか、毛糸の色を変えるとかデザイン変更が無限にできるとか(現に、完成後に背面にコイン入れを追加している)、2つ折りにできなかった不満を上回る価値を感じた。
このような自問自答の中で,厚さや技術不足などの制約と、機能を追加できること、軽さの実感などの付加価値を、ユーザーとしても把握できたことが満足につながっていると思う。このようなデザイン変更過程での試行錯誤は、開発途中で開発者とユーザーがコミュニケーションしていることを意味する。
製品開発において、ユーザーのニーズに合致できないと分かった場合(技術的な制約などは常にある)、デザインや設計を変更して最適化(この言葉も怪しい)する。しかし100%合致できるケースの方が少ない現実を考えると、「設計の流動性」は必要不可欠であると言える。
昨今のように、モノだけで完結しない場合(そのようなケースの方が多いからサービスシフトするわけだが)は特にそうである。ニーズに合致できない場合、どこかで折り合いをつけ自社が実現できる範囲で製品とニーズの関係を最適化しなければならない。そのような時に取り得る方策は次の2つである。
*製品とニーズの関係を最適化する方策:
- 新たな価値のある代替手段を見出して置き換える。(ユーザーが新たな価値を見出せる > マイナス感が無い)
- ユーザーにニーズに合致できないことを理解してもらい、代替案を一緒に考える。
後者の場合は「ユーザー参加型デザイン(Participatory Design[2])」を意味する。先の4つのタイミングで言えば2と3であり、これをコンダクトするのはデザインセクションであるべきである。そしてデザインセクションの中でUXデザインやユーザー調査を担当する者がリードすべきである。
また、ユーザー調査のジレンマは、調査で理解したニーズが時間の経過と共に変化してしまうということである。ユーザニーズを固定化したものと考えると、この変化に注意が行かなくなる。これは、調査そのものを精緻化するのではなく、調査・デザイン・設計を流動的に行うべきことを示唆している。(IBMも「理解」を常に取り込むプロセスを採用している[3])
設計をスタートした後(タイミングの2)に新たなニーズを理解し、それを設計に反映できるような(できなければ他の代替案を考えるような)プロセスの流動性がどうしても求められる。導入後にこれを行い次期製品で導入を検討する場合が、タイミングの4に該当する。
ユーザーと良好な関係を保ちユーザーの期待を裏切らないためにも、調査グループが行うユーザ コミュニケーションは重要である。そしてそれは、ユーザニーズを理解する段階だけでなく、設計スタート後、次に導入後、というように継続的に行う。そして、ニーズに合致しなかったり新たなニーズが理解できた場合にどのように対処するか、開発チーム全体で対処できる体制やプロセスを作る必要があるであろう。
"wemakegood"のインスタグラムより引用(https://www.instagram.com/p/BjKsxTvgueD/?taken-by=wemakegood)
参考情報
(2) Participatory Designについてはまだ本コラムを書いていないようなので,改めて執筆します.
(3) デザイン思考の普及について一考 http://hideyuki-matsubara.postach.io/post/dezainsi-kao-nopu-ji-nitsuiteyi-kao