近未来の監視エクスペリエンス

「21世紀のフューチャリスト用語[1]」によれば、 近未来の監視は「相互監視(コベイランス)」である。

「相互監視(コベイランス)」とは、SF作家デイヴィッド・ブリン(David Brin)氏の造語であり、共監視を通じて透明な社会とする事を意味している。最近のドライブレコーダーによる報道などを見ていると、 やはり相互監視に向かっているな、と思う。

SF(Science Fiction)にはUXのヒントがたくさんあるので映画も小説も好きなのだが、最近再読した『いたずらの時間』という小説にも「監視」問題が出てくる[2]。

『いたずらの時間』の著者は、映画『ブレード ランナー』や『トータル リコール』の原作者で、著名な米SF作家であるフィリップ・K・ディック(Philip Kindred Dick)氏。舞台は今から100年後のディストピアな社会である。周囲いたる所に「ジョブナイル」という監視虫(ロボット)がはったり飛んだりしていて、社会規範である「道徳的再生」に反した発言や行動がないか常に監視している。

人々は「居住ユニット」に集団生活しているのだが、この居住ユニット自体が、昔あった「隣組」のような相互監視の仕組みとなっており、毎週行われる居住ユニットの集会では、「道徳的再生」に反した発言や行動が糾弾される。糾弾されること自体が社会的制裁なのだが、最悪の場合は植民惑星の「アザーワールド」に送られてしまう。勿論、集会室にもジョブナイルがいる。

仕事においても同様で、オフィスの壁は「ビュー・ウォール」と言われる表示装置でありに、上級管理職が部下の仕事ぶりなどをこのウォールで密かに監視する。まさに、精神を病んでしまうような殺伐とした社会なのだ。

相互監視ではない一方的な監視のあり様としては、『2001年宇宙の旅[3] 』のハル・コンピューターや、『ハンガーゲーム[4]』の世界観がその代表である。権力が被権力層を支配しようとする構図である。

『いたすらの時間』は60年以上前に書かれた作品でありながら(発刊は2018年だが発表は1956年)、ドローン撮影やドライブレコーダーや街中の監視カメラなど、現代の監視サービスやシステムの「未来学のケーススタディー」として読んでも面白い。

なおSFはアドバンストデザインにおいてもとても有効な素材でり、良い参考資料である。是非一度参考にされたし。


By Marica Massaro - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=61933090

参考情報
[1] 「知らないと恥ずかしい21世紀のフューチャリスト用語20」> https://www.gizmodo.jp/2016/04/2120futurist_terms.html
[2] 『いたずらの時間』(フィリップ・K・ディック著、早川書房、2018年)> https://www.amazon.co.jp/いたずらの問題-ハヤカワ文庫SF-フィリップ・K・ディック/dp/4150121958
[3] 『2001年宇宙の旅』2001年宇宙の旅> https://ja.wikipedia.org/wiki/HAL_9000
[4] 『ハンガーゲーム』> https://ja.wikipedia.org/wiki/ハンガー・ゲーム_(映画)