メンタル・アカウンティングについて
Published by 松原幸行,
米シカゴ大の経済学者リチャード・セイラー(Richard Thaler)氏がノーベル賞を取ったことで、行動経済学としての彼の研究である「メンタル・アカウンティング」という言葉が注目されている。日本語で、「心の会計」とか、「心の家計簿」という。
人の日常生活における経済行動(買い物やギャンブル、投資など)について、心理学を交えて分析するもので、お給料は大切に使うが、ギャンブルで儲けたお金は散財してしまうのはなぜか、といったような疑問に答えるものだ。サービスデザインにもマネタイズ(収益をあげる方法)は欠かせないので、行動経済学の視点は大変参考になる(*1)。
同じく行動経済学者であるダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)氏が行なった『人は1枚の芝居のチケットを2度購入するか』について、女性被験者を対象とした2つの実験が興味深い。1つ目は「劇場まで来て、前売りで購入した160ドルのチケットを紛失したことに気付く」という設定である。窓口では同じ値段で当日券が販売されているが、被験者の9割が「当日券は買わずに芝居を諦める」と回答した。
2つ目は「当日券を買おうと窓口に並んだ人が、財布から160ドルがなくなっていることに気づく」という設定である。この場合「クレジットカードなどで購入する」と回答した被験者が9割もいたという(*2)。
160ドルの損失という点では、両者とも同じだ。後者は、チケットを2度買っていないから問題ないとの判断だろうか。カーネマン氏は、これほどまでに回答に差をつけた要因が「心の会計」に心理にあると言う。UX的には、チケットやお金を無くすなど、ヒューマンエラーを起こさない方向で考えるべきだが、ヒューマンエラーが起きた場合にどう対処するか、考えておいてもいい。前者の場合は、購入時点でDB登録しチケットそのものを無くすサービスが考えられる。後者については当日の窓口でのクレジット販売サービスを提供するくらいしか手はないが。。。
心理学でよく話題に上がる「認知バイアス」にも同じような指摘がある。関連するバイアスには次のようなものがある。フレーミング効果、おとり効果、アンカリング効果、ハーティング効果、現状維持バイアス、損失回避、確実性効果、プロスペクト理論、ギャンブラーの誤謬、現在志向バイアス。アンカリングについては以前触れたが、その他については今後詳しく触れたいと思う。
"m_renie"のインスタグラムより引用(https://www.instagram.com/p/BbgjP7vHnw0/?hl=ja&taken-by=m_renie)
参考情報:
*2 浪費の原因は「心の会計」 どうすればお金が貯まるのか https://zuuonline.com/archives/132746