サービスモデルは3レイヤー
Published by 松原幸行,
「サービスをデザインする」とか「UX視点でサービスを考える」というような言葉をよく聞く。私はここにある種のミスマッチがあると思う。サービスをきちんとデザインしたりUX視点を取り入れる事の重要性にはいささかも異論は無いが、サービスデザインという世界が余りにも広いために、どこかで未整理な印象を受けるのだ。大筋で正しいからといってそれだけでは実践できない。
まず、一口にサービスというが、サービスには3つのレイヤーがあると考えている。
第一のレイヤー:経営(Corporate Vision and Business Goal)
第二のレイヤー:戦略とサービス定義(Business Planning and Service Definition)
第三のレイヤー:施策の実行(System Design)
どのレイヤーも組織の持つリソースと提供する価値の関係で成り立っているが、その比重とバランスが異なる。リソースは有形でコントロール可能だが、ある範囲を超えると運用上のリスクが生じる。提供価値は本質的には無形なものだが、スムーズに提供するためには適切な方法、つまり機能や有形物や提供する手段などが必要である。
さて経営視点では、サービスとは事業そのものであると言える。つまり利益の最大化を図らなければならない。リソースは会社の組織や資産だし、提供価値も「社会性公共性のある事業の展開」のように割と抽象的なものとなる。ここではあまりUXという視点は入れにくいし、入れたとしても概念的なものとなる。当然である。経営判断にはそれほど詳細なデザインは必要ないからである。成果主義の下で経営エグゼクティブの成果は、株主への利益の還元であって、経営は慈善事業ではない。
戦略視点でのサービスとは、提供価値をどう具体的にサービスに落とし込むための個々の事業をデザインすることである。ただここでは最終目標が「売上目標の達成」であるため、サービスのブレークダウンはその達成担保する範囲でのみ実行される。従って、どこまで落とし込むかを決めるためのサービス定義が重要となる。何故目標が売上なのかというと、このレイヤーの今日のトップは明日の経営エグゼクティブだからである。成果主義の下では売上の達成をコミットせざるを得ないのである。
施策の実行のレイヤーにおけるサービスとは、まさにシステムデザインと同義になる。その対象はサービスのタッチポイントであり、WEBサイトや商品や流通、販売、メンテナンスや、提供に直接従事する人までを含む。何故システムであると断定するのかというと、サービスの本質が機能だからである。
サービスの本質について吉田は述べる。『サービスの本質は機能であるが、すべての機能ではなくユーザーの期待に応えるものでなければならない。』(2007 吉田民人)
つまり機能は機能だけでは成り立たず「ユーザーの期待にそった意味」をまず持たなければならない。この意味が「提供価値」にあたる。意味とは、つまりコンテンツである。
さて、提供価値を見出すためにはUXの視点が欠かせない。サービスを利用してもらうためにはまずサービスにアクセスしてもらわなければならないからである。システムデザインの最初はサービスアーキテクチャを決めることになる。何故ならリソースの配分を考えながらサービス定義された提供価値をうまく働かせるためにはシステムの全体を組み立てておく必要があるからである。勿論明示的に組み立てなくてもサービスデザインはできるが、配分が恣意的になったり、ひいては非効率な運用となる。
戦略レイヤーの実態はビジネスプランニングである。一事業の売上目標はその企業の売上全体の3%程度が基準となるから、1億円を売り上げる企業の場合だいたい300万円となる。300万円売り上げれば及第点となる。これは完結するサービスの場合だから、インターネット契約の様に継続を前提とした場合はまた違ってくる。先に述べたように、この目標クリアが担保されれば、価値提供としては何をやってもいい。むしろ良いアイデアをどんどん出して、オプションを増やすべきだ。このビジネスプランニングの最下位にプロダクトプランニングがあるが、実はこれは、システム要求書と表裏一体である。プロダクトプランニングの成果がシステム要求書であるべきだ。そしてその第一章がシステムアーキテクチャとなる。このシステムアーキテクチャがつなぐ形で、さの下位部分に施策レイヤーが位置付けられる。
施策レイヤーでは、サービス実現のための様々な施策が実行される。大別するとサービスのタッチポイントとサービスコンテンツである。サービスのタッチポイントには次の様なものがある。
ーWEBサイト
ー課金システム
ー製品(ハードウェアとソフトウェア)
ー利用を促進するためのオプション類
ーマニュアル類
ーヘルプデスク
ー接客・受付
ところで、戦略レイヤーと施策レイヤーは、元AdaptivePath社のジェシー・ジェイムス・ギャレット(Jesse James Garrett)が提言する「UXの5段階モデル」に詳しく述べられている(http://www.jjg.net/elements/pdf/elements.pdf)。但しこの図の中のピンクのレイヤーである「Interaction Design」とは、UIとソフトウェアの内部インタフェースのことなので誤解しないように。本来、インタラクションデザインとは、振る舞いを規定するものであり、それはイコール、ソフトウェア(特にファームウェア)に制約や制限を与えるものだからである。
"Ituxnyc"のインスタグラムより引用(https://www.instagram.com/p/BZ3qXbQnkq1/?hl=ja&taken-by=ltuxnyc)