すごいサービス
Published by 松原幸行,
「すごいサービス」には,先味・中味・後味の3つの"良い味"が必要である.そして「すごいサービス」は確実に利用者の心に刺さる.このようなサービスは「ワオ・ストーリー」とも言われる.
先味とは,商品やサービスに触れる前に感じるものである.レストランでの食事であれば,料理メニューを見ながら美味しそうな料理を選んだり,店の雰囲気を見て味への期待を持ったりすることだ.中味とは,商品やサービスそのものに触れているときに感じているものである.盛り付けが綺麗.味が美味しい.スタッフの応対が良い.などということだ.後味とは,商品やサービスの魅力を味わった後に感じるものである.支払いの対応が丁寧であるとかクーポン券をくれるとかいうことだ.
先味は予期的UXということになる[1].どんなサービスかと期待する段階で心に刺さることが重要だ.単にメニューを見やすくするだけなら誰でも(どんな店でも)考える.ここでサービス提供者(店のオーナー)の感性が問題となる.他の人と違う感性を持たないと個性は生まれない.つまり他の店と一味違う期待を与えることはできない.
中味と後味は体験的UXであるが,後味というのがいかにも日本的である.日本人は後味を大事にする.だから「立つ鳥跡を濁さず」と教えられる.綺麗に去った人には良い印象を持ち,なごり惜しさを感じる.
ある料理屋では,トイレをお客が利用する度に清掃するそうだ.水一滴残っていないという.だから前の人に続けて入ろうとすると「少々お待ちください」と言われる[2]. 主人は,気持ちよく用を足して欲しいとの思いだけだそうだが,その思いに徹した結果である.リッツ・カールトン大阪のルーム係のスタッフは,お客さんが室内に忘れた見分証明書を自ら東京まで届けたそうだ[3].これらはまさに感性の問題だ.綺麗にしたい届けたいという当事者の感性と,それを善しとする経営者の感性の両方である.
例えばキヤノンに対する期待は「EOS Rを1年間無償で貸してくれる」とか「画像ファイルサービスは容量無制限で利用できる」というようなことだ.それは分かるがそこまではとてもできない,ということなのだろう.
いままでの企業経営のやり方では,今までの事業やサービスしか提供できない.当然差別化も難しい.起点を変えずに差別化するという発想自体が的はずれである.起点を変えるには経営の価値観を変えるしかない. 「すごいサービス」が求められるのはこの様なことが背景にある.「すごいサービス」というサービス品質に定石はなく,みずから考えるしかない.そして次の2つを実践するしかない.それは,感性を豊かにすることと,全社でデザイン思考プロセスに取り組むことであると確信している.
参考情報