UXのハニカム構造をもとにユーザーを知る

インフィメーションアーキテクトのモービル(Peter Morville)は、UXは「ビジネスゴールとコンテクスト」「ユーザニーズと行動」そして「コンテンツ」の3つでか考えなければならないと言っており、良いUXを導くためには次の7つの要素が必要と述べている[1](a/b/cは筆者)。

・Useful(役に立つか)*a
・usable(利用できるか)
・desirable(望ましいか)*a
・findable(見つけやすいか)*c
・accesible(アクセスしやすいか)*c
・credible(信頼に足るか)*b
・valuable(価値があるか)*b

この7つをカテゴライズしてみる。

(a) ユーザーのコンテクストによって決まるもの=役に立つか、望ましいか。
(b) 共感を得るために知るべきもの:ユーザーの価値観やゴール=信頼に足るか、価値があるか。
(c) ユーザビリティに関するもの=見つけやすいか、アクセスしやすいか。

いずれにしても、アンケートなど消極的なやり方ではなく、もっと踏み込んだ方法を採用する必要があるということを示唆している。たとえば、ユーザーを知る調査としては、北欧で開発された「エスノグラフィ」という文化人類学の民族誌という手法を源流とした方法が有力である[2]。

(a)については、ユーザーが居る場所を訪問しコンテクスト・インクワイアリ[3]という観察手法を用いて調査する。
(b)については、ユーザーへのヒアリングを通じてペルソナ[4]をまとめる。
(c)については、実際にシステムを使ってもらいながらユーザビリティ評価を行い使いやすさの程度を把握する。

私も過去に何度か、複合機の「フライ・オン・ザ・ウォール」[5]をしたことがある。その時の想定外のユーザー行動は「様子を見にくる」という行動であった。プリントした用紙を取りにくる訳でもなく、スキャンをしにくる訳でもなく、ただ様子を見にくるだけの行動が23%もあったのだ。この情報を基に表示系インタフェースの見直しなど行った。このように、ユーザーの実行動の中にはアンケートなどでは引き出せないインサイト(潜在的本質的なニーズ)が隠れているのである。


"株式会社ジェイテック"ホームページより引用(http://www.jtecnet.co.jp/jtec2

参考情報:
[1] Semantic Studiosサイト http://semanticstudios.com/user_experience_design/
[2] 文化人類学では、現地に長期間滞在し、フィールドワークという経験的調査手法を通して、人々の社会生活や習慣や文化的な背景などについて観察し具体的体系的に記述し、「民族誌」にまとめます。HCDでは、この民族誌をユーザー調査に応用し、エスノグラフィ調査という形で利用します。
[3] 「文脈質問法」とも呼ばれ、ユーザーの現場を訪問して実際にシステムを使用してもらいながら、利用状況の文脈的な理解に努めます。文脈の対象としては、使用する場所の環境的な要因、属人的な要因、慣習的な要因、制度的な要因などがあります。
[4} 対象となるユーザー(代表ユーザー。イノベーティブな商品やシステムの場合はイノベーターやアーリーアダプターとなる)の概要を表したもので、イメージを掴みやすいようにビジュアルな要素も含めてまとめます。但し視覚的な表現やプロフィールなど形式的なものを重視し過ぎるのは危険であり、代表ユーザーのゴールや価値観を知ることが目的です。
[5] フライ・オン・ザ・ウォール:エスノグラフィー手法の1つ。ユーザーに関与せず、観察によってユーザー行動の特徴などを知る方法。筆者の場合は、複合機の後ろにあるパーティションの 背後に隠れて2週間観察しました。