未来学
Published by 松原幸行,
ー未来学について(HCD-Netメールニュースより)ー
未来学(英: futurology)と言われる分野がある。歴史を踏まえて物事が未来でどう変わっていくかを詳細に調査・推論する学問分野、ということである。未来はこうなるという洞察だけではなく、望ましい未来はどうあるべきかを検討することも含むようである。また未来を全体的体系的に捉えようとする。この辺りも踏まえて、未来学とHCD/UXDの関係について考えてみよう。
筆者は10年ほど「先行提案型デザイン」に取り組んで来た。その中で企業のコア・コンピタンスは何であるかとか、5年後10年後の生活はどう変わるかなどを随分と考え、プロトタイプを製作し提案してきた。そこでコンセプトの前提としたのは、「現在の不具合」と「未来はどうなるか」という2つの洞察であった。
現実を起点とするところは、未来学もHCD/UXDも同じだが、未来はこうなる、こうあるべき(だからそれに備えて行こう)とする未来学の課題認識と、現実をいかに良くするかというHCD/UXDの課題認識は随分異なる。ところがイノベーションに目を向けると、HCD/UXDの「現実を良くする」という課題認識では、足りないことが分かる。現実を良くするのは、プレイヤーでありつづける、つまりクリステンセンが言うところの「持続的なイノベーション」である。これに対して、「破壊的イノベーション」に取り組もうとすると、未来に対しての考えを持たざるを得ない。未来に対しての考えが無いと、提案者の思いつきとなり、「面白い」という域を超えることはできない。「未来はこうなるから この提案が必然だし それこそが新たな価値である」と説くのである。このコンセプトを具体的に伝えようとする時には、可動し体験可能なものやビデオ仕立てのプロトタイプがとても有効である。
takram design engineering や Microsoft、富士通などが積極的に取り組んでいるが、このような事例は企業が公開しないために日の目をみることは稀である。だが「未来の経験を描く」という意味ではHCD/UXDへの期待は大きく、可能性も秘めている。まだ顕在化していないが、未来学の視点を取り入れた「フューチャーUXD」などもこれから育って欲しいと願うところである。
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補足を少し。「未来学」とは、ドイツ人教授 オシップ(Ossip K. Flechtheim)氏の造語で、歴史(現実)を踏まえて未来での物事がどう変わっていくかを詳細に調査・推論する学問分野だそうです(1)。結論から言うと、“我々デザイナーは未来学者"です。調査推論というプロセスはコンセプトワークに等しいし、その上で今ではない未来にあるべきモノやコトを具体化して提案するのだから。では、未来を見る“正しい目"は持っているのでしょうか。未来を見る目には3つのパターンがあります。一つは「編集された情報」です。経産省のシンクタンクや調査会社が行うマクロ調査などです。二つめは「伝聞情報」です。社外に良い人的ネットワークを築けば自然と入ってくる情報です。各分野のキーパーソンのはその道のイノベーターなので、彼ら彼女らから得る情報からは沢山のヒントが得られます。三つめは「自分の目 耳で得た情報」です。つまり一次情報であり、嫌がおうにでも入って来るものです。勝手に入ってくるフロー情報に対しては、何に注目するか、感性が大事になります。あしげもなく見本市に行くのは、何かいいネタを掴むためでもありますが、ただ主題が決まっているので、偶然の出会い(セレンデュピティーといいます:2)はあまり期待できません。寧ろ休日に映画を観たり山を歩いたりする方が、閃きとの出会いがあります。だから社内でも他の土地(部門)へ訪れ、現地の人とアンダーザテーブルで交流すると閃きや再認識が沢山あります(3)。
未来学としてのデザインには、編集された情報と、伝聞情報と、自分で得る情報の3つがあり、その3つとも必要、とのお話でした。
(画像出典:Creative Commons at Flickr:http://u0u1.net/FBri)
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参考:
(1) https://ja.m.wikipedia.org/wiki/未来学
(2) 成功を引き寄せる「セレンディピティ」を起こりやすくするための9の行動原則 http://www.lifehacker.jp/2013/08/130820serendipity.html
(3) 競争優位を築く"アンダー・ザ・テーブル" https://www.unisys.co.jp/PDF/UNISYSNEWS/news0003.pdf