ユートピア志向なストーリー

仮に、無人島に半年間滞在することになったとして、本を2冊持参してよいと言われたらあなたはどんな本を選ぶだろう。私は迷わず宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』とリチャード・プローティガン(Richard Brautigan)の『西瓜糖の日々』を選ぶだろう。

この2作品はもう数えきれないほど読んでいる「愛読書」である。幻想的であり童話的でもあるこの2作品は、テーマも舞台設定も違うが、奇妙にも似た傾向を示している。

『銀河鉄道の夜』(以下「銀河鉄道」)は、主人公ジョバンニの空想というかたちでストーリー展開する。列車が銀河(milky way)に沿って走りながら、白鳥や魚や天秤など星座を模したエピソードが親友のカンパネルラとの交流と共に展開する。

一方『西瓜糖の日々』(以下「西瓜糖」)は、<周囲のものー建物や衣類ーが全て西瓜でできている架空の街アイデス(iDEATH)にある西瓜から衣食住に必要なものを作り出す工場>を舞台に、エピソードが展開する。つまりどちらも一言で言えば非常に幻想的で童話的だ。

主題については、どちらも愛や友情や生といった根源的なものである。エピソード自体の内容は違うが、どちらも、現実にありえない場所を舞台としている点において、そこが作者にとっての<ユートピアの再現>であるのは間違いない。

ユートピアは死の意識とともにある。「銀河鉄道」の乗客は死へ向かう途中にある。その意味では銀河が「三途の川」とダブって読み取れるのだ。

やや道をそれるが、クリスマスイブに夢の世界を冒険するアニメーション映画『ポーラー・エクスプレス』の前半では「銀河鉄道」のように列車の中でストーリーが展開する[1]。脚本・監督のロバート・ゼメキス(Robert Lee Zemeckis)氏が「銀河鉄道」を読んで参考にしたとしか思えないのだ。原作となる童話が発行されたのは1985年だが映画公開は2004年であり、「銀河鉄道」の英訳版(1996年出版)を事前に読んだ可能性は大いにある。

話を戻して「西瓜糖」の方であるが、アイデスでは死者はガラスのひつぎに納められ川の底に安置される。つまり地上からいつでも死者に会える状態である。村人たちは何かあると川底を眺め、死者と心の交流を行う。

つまり、死者を通じて死を生じさせた現実へ思いをはせるという点でも、両者は共通している。また、ネタバレになるので詳しくは言わないが、最後のパートで「死」そのものが描かれるという点も同じである。死は悲しみであるが、悲しみを超越して死と向き合いつつ、あらためて生を考える、といった逆説的なアプローチとなっている。

このように、「銀河鉄道」と「西瓜糖」は、共に幻想的かつ童話的なユートピアを描いた作品であり、生や死、愛と友情など根源的な主題を持つことにおいて、類似性を強く感じさせる2作品である。

Neith-Nabu - 自ら撮影, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=85279857による

参考情報
[1] ポーラー・エクスプレス - https://warnerbros.co.jp/home_entertainment/detail.php?title_id=1424