2021年のデザイントレンド
Published by 松原幸行,
2021年のデザイン課題とトレンドについての記事を紹介する。
一つ目はHuman Deluxeという会社のファウンダーであるジョナサン・アイペン(Johannes Ippen)氏のコラム[1]。
ここには次の3つのトレンドが示されている。
- グラスモーフィズム(Glassmorphism)
- 3Dハンド(3D Hands)
- サイケデリック・イラストレーション(Psychodelic Illustrations)
1のグラスモーフィズムは、半透明の効果をヴジュアル表現に用いるようなものだ。これは、もともとスキューモーフィズム[2]という概念があり、その発展として注目される「ニューモーフィズム」と同様のものと考えていい[3]。
2の3Dハンドは、UIオブジェクトをホールドしたりハンドしたりポイントしたりする表現や、手順完了やポイント獲得などをハイタッチで表現しシステムへのエンゲージメントを高める方法として使用する。
3のサイケデリック・イラストレーションは、アメリカのホームコメディ番組「Broad City」に影響を受けた表現スタイルだそうである。デザイナーはしばしば、放送メディアに触発され動機づけられて面白い表現を取り入れようとする。
二つ目は、InVisionという会社が公開している「Inside Design」というブログサイトの記事である[4]。ここでは次の7つの重要な視点を示している。それはそのままビジネスやデザインの課題でもある。
- デザインシステムはチームの可能性を広げるか
- デザインがこれからもビジネスのテーブルに留まれるか
- デザインの組織は体系的な変化を生み出しつづけるか
- ジェネラリストはコラボレーションの鍵になるか
- 仕事と生活が再び乖離するか
- デジタルファーストは競争上の優位性を維持するか
- 我々は今後も重要なことに注力しつづけるべきか
1
InVisionの調査では、2020年に米国でデザインシステムを使用した人の83%が通常のワークフローの一部として少なくとも週に2時間節約でき、34%が6時間以上節約できたということである。デザインガイドラインやスタイルガイドにより新規採用のデザイナーが早期に活躍できるようになることからも、デザインシステムの有効性には疑う余地がない[5]。
2
ビジネスの成功のため全社一眼となるためには「ノーススター(北極星)指標」、すなわち組織全体で共有すべき目標の設定が重要で[6]、これをブレークダウンしたものがKPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)だ。全社がONEチームとなるためには、まずノーススター指標を決めるべきだ。例えばノーススターをビジュアライズする役割をデザイン組織が担うことはテーブルに留まり続ける一助となるであろう。
3
米国の62%の企業で「多様性」「公平性」「インクルージョン(包含する、受け入れること)」などのキーワードに注目しているという。また米国の74%の企業からサービスインされるデジタル商品において、社会的利益に焦点があてられているという。商品に社会的利益や価値が求められる昨今において、多様性や公平性やインクルージョンが重要な要素であると言える。その意味ではソーシャルセンタードデザインなどがより注目されるのであろう。
4
ジェネラリストは、組織を俯瞰できる能力や専門性の理解と共に、チームの他のメンバーを補完するスキルを持つような、ハイブリッドな役割を持つことが期待されている。そしてこれからの組織はそのような人材獲得に注力すべきであろう。
5
ホワイトカラーの人々は、「コロナ禍が終わるまで、以前行っていた仕事をテレワークでどうすれば続けられるのか」と考えた。だから不慣れが先に立ちキャッチアップが遅れたのだ。実は「どうすれば自分の仕事をテレワークに最適化できるのか」というマインドセット(Growth Mindset)で考えなければならなかったのだ。その文脈の中でワークとパーソナルライフのバランスを考えるべきであろう。
6
DXはデラックスのことだという笑ネタのCMがあったが、このDXとはDigital Transformationの略である。デジタル浸透は目的ではなく、デジタル化を通じて人々を幸せにするということである。ただメーカーが見ている"人々のより良い生活"と"実際の人々の想い"との間に乖離があることも否定できない。その辺りを意識し戦術を修正しながらDXなりデジタルファーストを進めていくべきである。
7
Covid-19の登場によりビジネスの環境や与件は確実に変わった。全てのサービスは見直しを余儀なくされている。逆に言えば、従来のサービスなりビジネスを強引に進めようとすればするほど、先に述べた"乖離"は増すのであろう。
以上のようにデザインの課題はビジネスの課題でもある。ユニクロのVIをデザインした佐藤可士和のブランディングも戦略的な活動の一つであるように[7]、ガイドラインやデザインシステムを構築することそのものが戦略的な活動であると言えるのだ。課題の解決はデザインシステムの構築から始まる、と言っても過言ではない。
Conny - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=32179937による
参考情報
[2] スキューモーフィズム(Wikipedia) - https://ja.wikipedia.org/wiki/スキューモーフィズム
[3] ニューモーフィズムとは?デザイン方法やルールのまとめ - https://webdesign-trends.net/entry/11155
[4] 7 trends designers should know for 2021 - https://www.invisionapp.com/inside-design/design-trends-2021/?utm_campaign=EM_Digest_12-16-2020&utm_source=marketo&utm_medium=email&utm_content=Card1&mkt_tok=eyJpIjoiTVRZMlpHUTVZV0ppTVdSaiIsInQiOiJneEVlOTNIdjFJZ1hOUEg0amlJM2ZxMkVXRmd5ZVduYjJqTlRWNE0ycFN1akJ1SkxvOWxcL0JkZFBNTGFmWmlOVklyN0U0SGJVN2g5cWtVb0VyRHM1dzJ4Z2c1V1NyZGpQVmVLcVRrelFcL0dETXBSRE1pZlNoS3hhdFRUbEVPQ1hFIn0%3D
[5] デザインガイドラインやスタイルガイドはデザインシステムの一部である。デザインシステムは20年位前から使われ出したと言われ、米国の大企業は2016年頃に整備を完了している[2]。
[6] グロースハックに欠かせない指標North Star Metricとは? - https://www.dentsudigital.co.jp/topics/2019/1128-000342/
[7] 【佐藤可士和のクリエイションの秘密】本質的な価値を伝える、「アイコニック・ブランディング」とは - https://www.pen-online.jp/feature/design/kashiwasato_creation_1/1