5段階の成長尺度

何事も、道を極めようとする姿勢は尊いものである。そしてどこまで極めたかを知りたいのが人情であり、知ることで、登山のように更なる高めを目指す気持ちも生まれる。

そのようなモチベーションの目標を可視化するために、身の回りの様々なスキル/技能の成長がレベルで示される。その多くが5段階である。

一番馴染みがあるのは「学習のレベル」であろう。義務教育を通じて使われ、通知表を受け取る度に4や5が幾つあるか、一喜一憂したものだ。

その他にも、最近改定された「大雨の警戒レベル[1]」、あるいは「食品品質のレベル[2]」、「マズローの欲求レベル」、「TOEFL」、「人事評価のS/A/B/C/D」などがある。「英検」も後から準1級、準2級が加わったが、基本は5段階である。

ソフトウェア開発にたずさわる者は、多くの場合、CMM(Capability Maturity Model、能力成熟度モデル)の枠組みの中で仕事をすることになる[3]。CMMは成熟度の段階を定義するだけではなく、段階を上がるための要件(成熟要件)も定義している。そしてこのCMMは、競争力を意味する「コンピタンス」を測ることにも適用できる。

富士ゼロックス時代に、CMMで規定されたUI開発やコンピタンス定義の活動を経験した。その中で分かったのは、レベルの定義よりも成熟要件の方が重要であり、実践に役立つということである。ちなみにコンピタンスの5段階は次のように定義される[4]。

1. 興味がある。
2. 指導を受けながら仕事を完遂する。
3. プロジェクトを自立的に担当できる。
4. 社内/業界で秀でており一定の組織をリーディングできる。
5. 社会で一流であることが認知されており、教育に専従できる。

英検やTOEFLは点数という形で要件を定義している。大雨警戒は、具体的な行動要件を定めている。一方、人事評価は、評価基準は定められているが、絶対評価ではないので要件は相対的なものであり、曖昧である。

食品品質はレベルではなくカテゴリーに近いが、これが実に面白い。簡単に述べると、本当に安全な食品はレベル5の「エビデンスがあり安全が認められている」カテゴリーだけになる。このカテゴリーには次の5品目しかない。

1. 魚
2. 野菜と果物(100%果汁のジュース、ジャガイモはダメ)
3. 白くない炭水化物(玄米や全粒粉のパン、蕎麦など)
4. オリーブオイル
5. ナッツ類

白米を玄米に戻す(良くする)ことは出来ないので、厳密には成熟度レベルとは言えないが、品質の定義としては生きたものである。

さて「マズローの欲求の5段階」であるが、実はマズローは、晩年に6番目を追加している。それは「自己超越」である[5]。自己超越段階は、目的の遂行や達成することだけを純粋に追い求める状態である。他人の目は気にしないし、ただ目標に向かった歩み続ける。この自己超越を醸し出す商品(製品やサービス)はどんなものだろうか。マイクロソフトのVRなどはその可能性を感じさせる[6]。


By SpaceX - SES-10 Launch - world's first reflight of an orbital class rocket, CC0, (https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=57565631


参考情報
[1] 「防災気象情報と警戒レベルとの対応について」> http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/alertlevel.html
[2] 「医学的に「健康に良い食べ物」は5つしかない」> https://toyokeizai.net/articles/-/217690?page=4
[3] 今はCMMI(Capability Maturity Model Integration、能力成熟度モデル統合)とよばれ能力の成熟度全般に用いられている。「CMM | CMMIとは」> https://www.compita-japan.com/kaisetsu/what-cmmi-1.html
[4] 富士ゼロックスという一企業で作られ運用された定義なので、学術的あるいはディファクト的に確立されたものではない。
[5] 「自己超越とは?マズローの欲求5段階説には知られざる6段階目があった」> http://changeva1ue.com/selftranscendence/
[6]「マイクロソフトがゴーグル型端末で狙う「スマホの次」の座」> https://diamond.jp/articles/-/195831?page=2