大企業勤務のデザイナー

大企業に勤務するのは良いか悪いかという記事をよく目にする.「良い」の意味は,得か損かという捉え方と,よりどちらが自分に向いているかという捉え方があるが,ここでは後者に比重をおいて考えてみる.損得に目を向けると,収入とか安定性などにより,割と直ぐ答えが出てしまう.

“自分に向いた環境"がどのようなところかについては,やはり自らつかんでおくべきだ.しかし嫌でも徐々に分かってくるので,分からない場合は大企業を目指すべきである,と学生諸君には言いたい.もっとも,学生時代から分かる人は少ないから,あえて言う必要もないが(^^;).

何故,この問題に触れるかというと,大企業から大企業その他に転職するのは,大企業以外から大企業へ転職するよりたやすい.つまりフリーランスや起業していた人が大企業へ転職するのはとても大変である.中途採用を制限しているところもあるから,そもそも希望する企業が選択肢にならないこともある.

学校を卒業して22歳から社会に出て60歳定年とすると,38年間をデザインの仕事に就くことになる.この38年間を有意義なものにするには,次の3つを得ることが重要である.

1. 一人で完結できるデザインスキルを身につけること
2. 楽しく仕事ができる場を見出すこと
3. デザイン以外のスキル・知識を高いレベルで身につけること

1については,デザイナーであれば,情報収集・分析をして,企画をして,デザインにまとめて提案するまでを指す.UIデザイナーとして入社した場合は,上記のプロセスを遂行してアイコンや画面集やフロー図やメッセージリストをアウトプットできないといけない.できればこれに加えて,スキルというよりはコミュニケーション力に近いが,実装(生産)やマーケティングに気を配って商品を仕上げるまでプロセスのフォローができる知識や社内折衝力も欲しい.またこれらは,業績をあげて評価を受けるための必要要件ともなる.

2については,まずは職場であるが,職場の人間関係と共に労働環境や職場の制度・不文律などがある.また,快適な労働環境であるか,IT機器の使用は要求を満たしているか,などが関係する.適度なオープンスペースや息抜きのための空間,アイディア出しなどを機動的効果的に行える空間,集中できる空間などなど,どのような空間が必要かについては一考を要するが,臨機応変に場づくりができることなども必要である.そういう居住空間としての要素以外にも,富士通の「共創スペース」の様に[1],クリエイティブ脳を刺激することを目指した“場"などを戦略的に考える必要がある.真にクリエイティブな組織を目指すのであれば,居室そのものを共創の場にしてしまうのも良いであろう.このあたりは,フリーランスや小規模事業体であればITツールやシェアオフィスなども臨機応変に活用できるので,有利かもしれない.

3については,オフタイムの使い方が関係する.デザインの仕事に直接役立つものとそうでないものあるが,どちらでも良い.幅を広げるには後者の方が良いかもしれない.外の世界の人との交流によって,人間的な幅が広がる.出社前の時間を有効に使う「エクストリーム出社[2]」や退職後のジム通いなども良いであろう.仲間と行く登山やハイキングなどは最適である.

大企業の強みとは,この3つをそこそこ実現できることではないだろうか.仕事のスキルも一連のプロセスで身につくし,環境もそれなりに整備できている.働き方改革で3も実現しやすくなっているはずである.やはり大企業勤務は「おいしい」と言うべきか[3].


"t_t702"さんのインスタグラムより引用(https://www.instagram.com/p/Bi7Kj8-FUSL/?hl=ja&taken-by=t_t702

参考情報
[1] PLY、HAB -YUに見る「共創の場」本音の議論、斬新な発想に工夫凝らす http://www.fujitsu.com/jp/services/knowledge-integration/insights/co-creation20170517/
[2] 平日の朝にくるストレスを振り払うべく「早朝フェス」で盛り上がってみる https://www.lifehacker.jp/2014/09/140903morning_fes.html
[3] 大企業に勤めることがやっぱり「おいしい」5つの理由 https://diamond.jp/articles/-/168697?page=5