デザイン思考の普及について一考

 IBMが取り組んでいるデザイン思考プロセスの普及活動が興味深い(1)。
「THE LOOP」と呼ばれるこの活動は、良いポイントをついていると思う。デザイン思考のプロセスとして、IDEOの「デザイン思考5つのステップ」などが有名だが(2)、このようなプロセスの雛形があっても何も役に立たないと言う。デザイン思考はプロセスの経験が全てであり、テンプレートを買って来て使えばOK、などという簡単なものではない。
特に、5つのステップである「共感ー問題定義ーアイディア抽出ープロトタイピングー検証」には無い「理解する」ということがとても大切である。しかも理解は日々刻々と変わるものであるから、昨日観察して、今日理解して定義し、明日アイディア出しする、というリニアなやり方では身につかないという。

 デザイン部門長のフィルギルバート(Phil Gilbert)は、デザイン思考を広めることが重要なのではなく、デザイン思考を行なってビジネス成果を生み出すことが重要なのだ、と述べている。その意味で、研修で課題に取り組むという形ではなく、実際のプロジェクトを通じてデザイン思考を経験することが大事だと言うのである。そういう経験を経て初めてデザイン思考は身につくし、市場導入を経験することで得られる気づきとか納得感は計り知れないと指摘している。もっとだ。

 THE LOOPは、Observe(観察して)とReflect(省みて)とMake(作る)というフェーズで構成されています。これをループさせる経験がデザイン思考だと言うのである。

 企業毎にデザイン思考に対する取り組み具合も、人が持つスキルレベルも違うので、どうしてもカスタマイズが必要になる。IBMでは、3ヶ月間のデザイン思考のブートキャンプ(3)を行なっていて、インターンの学生やデザインに興味のあるエンジニアなどが参加する。その中で自然と異文化交流やコラボレーションが始まり、デザイン思考を身につけて帰るという。課題とするのは架空のプロジェクトではなく、あくまでも実際のビジネスプロジェクト(受注案件)である。参加者は実際のシステムやサービスを市場導入する体験を持てるわけだ。IBMはこの様な取り組みで、社内への普及と社外へのコンサルを同時に行っている。

 デザイン思考を社内へ広める活動は日本でも行われていて、日立や富士通がベンチマークである。どちらもデザイン部門は研修の開催、セミナー、ブートキャンプなどを通じて活動している点は共通している。遅れをとるかどうかは、気づくかどうかにかかっている。つまり感性である。


"pt_fight4fitness"のインスタグラムより引用(https://www.instagram.com/p/BbT7elGgOyH/?hl=ja&taken-by=pt_fight4fitness

参考情報:
(1) THE LOOP https://www.invisionapp.com/enterprise/ibm-design-thinking
(2) 【やっぱりよくわからない】デザイン思考ってなに? http://blog.btrax.com/jp/2013/06/02/d-thinking/
(3) Stanford d.schoolのブートキャンプ https://www.gsb.stanford.edu/exec-ed/programs/design-thinking-bootcamp