デザイン思考の限界?
Published by 松原幸行,
今,デザイン思考の限界について議論がある[1][2].アイディアを発散するのは良いが,アイディアの収束,特に実現可能なものをどう導くかについて,手法がない.例えば,実現可能度のような尺度を設け,アイディア毎に評価していくとか,スクリーニングする方法を生み出すなどが考えられるが,論理的な根拠に基づいたものが無く,どうしても恣意的になってしまう.
そこで一つの打開策は生物の進化をヒントにすることである.HBRによると,デザイン思考に対してこれを「進化思考」という[3].進化思考の知見は次の3つである.
1.系統
2.共生
3.淘汰圧
1の「系統」とは,過去から続く事業の文脈を踏まえて適切なものを選択するというものである.クリステンセンらのイノベーションでいうと「持続可能なイノベーション」にあたる.現実の議論の中でも「継承」とか「レガシー」などということがあるが,現事業にあてはめるアイディアを出す場合には,むしろ重要な視点である.できれば「進化系統図」という形で,過去から進化してきた製品やシステムやサービスを整理し,その文脈上に,アイディアも系統的に整理すると良い.現在の次,その次,またその次というように.
解剖学的な系統というものもある.システム的に関連するアイディアや周辺のオプションなど,関係性を考慮しながらアイディアを整理するのである.いわば生態系を描くように,関連サービスやオプションなどを整理する方法である.
2の「共生」は,現事業や周辺のサービスなど事業環境全体の生態系を把握しそれらと共生させるものである.現事業を生かすという意味では,有効な視点である.うまくサービス連携を図れれば,シームレスな経験価値を提供することができる.
3の「淘汰圧」は,よいアイディアを絞り切るために勇気を持って捨てるということである.あれもこれも良いとしていると結局絞れ込めない.そこで,良いと思ったものでもあえて捨ててみる.取捨選択する過程で,チームとして目指す方向も見えてくる.ただ一般的な感情として,自分の出したアイディアが他の人の意見によって淘汰されるのは抵抗がある.だからこそ、淘汰の基準やルールは明快でなければいけない.できればアイディアを出した本人の手で淘汰するのが望ましい.
どの知見をもとにするかは,意識しておいたほうが良い.そして何よりも,アイディアは数を多く出すことが重要である.少ない数では,系統も共生も淘汰もおざなりなものになってしまう.
"n.takinoco"さんのインスタグラムより引用(https://www.instagram.com/p/BOFLQvRhh_F/?hl=ja&taken-by=n.takinoco)
参考情報
[1] 日立や富士フイルムは何をしたか デザイン思考の組織改革力 https://www.projectdesign.jp/201501/processofdesign/001790.php
[2] デザイン思考の限界と可能性 http://ddcph.hatenablog.com/entry/2016/09/14/174426
[3] 書評「進化思考の世界」 http://d.hatena.ne.jp/sakstyle/20101023/p1