定量主義に代わるもの

最近、企業が業績目標を下方修正する事が多くなっているようだ。先が読めない時代である。数値目標を設定すること自体が時代にそぐわないとも言える。数値化しない事業目標も必要なのだ。

パナソニックがカンパニーの業績目標を設定できない件[1]は事業の目論み違いとのことで 事業ポートフォリオを見直すしかないが、多くのケースで、市場のニーズと事業のミスマッチという場合も多いと思う。

一つの原因は数値で示す目標の限界である。何でも数値化し判断する「定量至上主義」は合理的なモノづくりには役に立つ。確かにステークホルダーへのコミットとしては説得力のあるものである。だが、経験を大事にする社会に、数値は馴染まない。

従来、顧客/市場に受け入れられたかどうかを測るのに「顧客満足度(CS)」が指標となり結果が数値化されたが、開発・デザイン組織の多くがこれに翻弄された感がある。

何故なら、評価スケールを用いて顧客に満足度合いを判定してもらい結果を統計処理するやりか方に無理があるからだ。判定の段階で閾値の問題が考慮されていないし、統計処理は「想い」とか「心の充足」など個人的な情動の部分がカバーできない。そもそも顧客が真実を言うとは限らない[2]。

これは、経験を問題にする場合、さらに顕著である。モノに対する満足感はそのモノだけでは決まらないし判断できない。聞かれても顧客は困るであろう。「満足した経験」にかかわったモノ(サービスデザイン的に言えばタッチポイント)が「満足したモノ」であるとは限らない。モノに難点があっても、それを補助するツールやサポート体制などがあることで、その難点が許容されることはままあることだ。その結果「好きなモノ」になってしまうことさえある[3]。

やはり、経験はトータルに考えるべきである。

事業の成否は、顧客が良い経験をしたかどうかである。ではその"したかどうか"はどう知るのか。"したかどうか"をスケールで答えてもらうのであろうか。違うであろう。

良い経験は家族や知人など周囲の人に話したいものだ。インスタグラムやフェイスブックに呟くかもしれない。日記にも書くであろう。日記は調査対象外としても、それ以外の、いわゆる「口コミ」は、良い経験であったかとうかを知る一つの指標となる。

世界最大の会計会社 Deloitteも、調査項目に「Word-of-mouth」を使用している。口コミを販促に活用する口コミマーケティング(word-of-mouth marketing:WOMM)という手法もある[4]。

「口コミ」をAIで解析することは可能かもしれないが、そういった定量主義に突入する前に、定性主義でアプローチしてみてはどうだろう。

経験した顧客からその経験がどうだったかをヒヤリングし、定性分析を行う。思い通りだったのか、想定を越える驚きだったのか、感動したのか、まあまあだったのか。そのような情動の部分の度合いを知るのである。

手法的にはグランデッドセオリー法[5]が応用できそうなので、研究してみようと思う。

これからの目標は「顧客にどのような経験をしてもらうか」である。つまり「提供する経験価値の適応性」である。「適応"度"」と言っていないということは、定量主義ではないことを意味している。

これからは"目標値無し"という状況が普通になるかもしれない[6]。企業や組織も「数値ではない事業目標」の立て方も考慮すべきであろう。


Paul Anthony Stewart - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=75865390による

参考情報
[1] パナソニックが「目標数値なき」年度計画、正念場で問われる危機感
[2] エンドユーザーの要求は間違っている?
[3] 最近購入した某社のテレビで経験したことである。初期設定に分からないところがありお客様相談センターに電話したのだが、オペレータが他に取り次ぐことなく的確な説明でスムーズに解決した。元々画質も良く気に入ったのだが、その素晴らしい応対で某社が好きになってしまった。
[4] 口コミマーケティングとは?その効果と企業事例を紹介
[5] 理論生成とグラウンデッド・セオリー・アプローチ
[6] 事業推進部門から数値で目標設定を求められた時が課題共有するチャンスであろう。