ささるコピーライティング
Published by 松原幸行,
2018年に生まれた「54文字の小説」[1]。原稿用紙に書かれた9×6=54文字の小説が「インスタ小説」と称して話題となり、TV番組でも取り上げられた。例えば。
SくんとNさんは磁石のS極とN極のようにお互いに強く惹かれ合い結婚した。Nさんの名字は夫と同じSに変わった。
また「54文字の文学賞」の第一回目大賞(小学生の部)の小説は次のものである[2]。
保育園での一コマ。保育士は、二十人の子供に向かい歌った。「幸せなら手をたたこう♪」園には沈黙と静寂が訪れた。
Twitterは当初140文字という制限があったが、54文字であればTwitterにも十分掲載できる。そんなわけでTwitterでもブレイクした。
以前「一行詩が感性を鍛える」的なコラムを書いた[3]。一行とはだいたい15〜30文字程度だろう。"だいたい"だから文字制限に縛りはないが、一行でつづれる事柄は一つだろう。
俳句も短歌も一つの事柄にフォーカスを当てる。だが短歌31文字、俳句17文字という文字数制限がある。しかも五七調である。たから表現の幅、自由度はどんどん狭くなる。
TV番組『プレバト』で披露されたミッツマングローブ氏の俳句がとてもいい感じだった。これである。
短夜や ロングアイランド アイスティ
「短夜(みじかよ)」という情緒ある季語を使い「ロングアイランド・アイスティ」というお酒の凄さも相まって、いろいろに空想が膨らみ、なるほどな、と思わせる。
ちなみにロングアイランド・アイスティにアイスティは使われておらず、ジンとウォッカとラムとテキーラが同量入っている、飲みやすいがとても強いお酒である。だから"レディキラー"とも言われる。
この俳句を使って54文字小説を書くこともできる。例えば。
短夜に一人で呑みはじめたロングアイランドアイスティ。甘い香りのフルーティーな味わいに一杯二杯とグラスが進む。
ロングアイランド・アイスティーのカクテル言葉は「希望」である。"一人で飲むときの希望"とは何か。そう考えるとさまざまなストーリーが湧いてくる。
電通が社内で「人権スローガン」というのをやっている[4]。もう30年ぐらいになるようだ。書いて提出すると500円の商品券がもらえるそうだ。例えばこんな感じ。
100年先の未来を変える10年にしよう
または、
社会を変えるには時間がかかるけど、自分を変えるのに時間はいらない。
部落問題とかSDGs関連のテーマが多いようだ。入選するとポスターも作ってもらえる。モチベーションの向上にもおおいに寄与することだろう。
最近のコピーライティングで次のようなものがあった。
いく、だけ。何も選ぶ必要がない。「オーダースーツ」はじめました。
32文字である。普通に考えるとスーツオーダーというものは面倒、という意識がある。ハードルが高い。それに対して<行くだけで自分にカスタマイズされた服が手に入る>という常識をやぶるストーリーは魅力である。ちなみに32文字は短歌の31文字とほぼ同じであり、短歌的であるとも言える。
「手軽に作れるオーダースーツ」というようなありきたりな表現ではなく、「いく、だけ」という短い表現がかえって興味をそそる。とても簡単であることが端的に言えている。
ビックカメラのネットショップでも「お買い物がタダ」というコピーライティングがあった[5]。最近はいかに短く購買意欲を刺激できるか否かがポイントのようだ。これもスピードの時代を反映した現象と言えるのだろうか。。。
Dllu - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=46570765による
参考情報:
[1] 『9×6の54文字の超短編小説「54字の物語」の投稿がTwitterで盛り上がる どれもすごい!』 - https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1807/04/news120.html
[2] 『「54字の物語」シリーズ〜クイズ番組でも話題!究極の短編小説』 - https://www.php.co.jp/54ji/
[3] コラム『感性豊かな表現』 - https://hideyuki-matsubara.postach.io/post/gan-xing-li-kanabiao-xian
[4] 『人権スローガンとボスター制作』 - https://www.dentsu.co.jp/csr/humanrights/posters.html
[5] 『ブラウン 100人に1人上限10万円までお買い物がタダ!キャンペーン』 - https://www.biccamera.com/bc/i/campaign/braun_shaver/cp/cashback/0201/index.jsp