DXとハンコの廃止
Published by 松原幸行,
最近DXの話題があちこちで取り上げられている。DXとは何か。DXに成功した企業、失敗した企業。DXをはばむ古い慣習やシステム、等々。
DXが完了した世界は「オフラインの無い世界」である。要するに全てのデータをつなげ統合することだ。
ただ漠然と考えていては何も進まない。一つ事例として取り上げてみよう。例えばコロナ禍で問題とされたハンコ。物事は何でも経験で考えるに限る。すなわち「ハンコ廃止による新たな経験とは?」という問である。
ハンコを廃止すると何か起こるのか。思いつくものを上げてみる。
- ハンコリレーが変わる(プロセスの問題)
- 個人認証の方法が変わる(認証技術の問題)
- FAXが不要になる:「中小企業はPCが一人一台ではない。FAXは皆で共有できる便利なツールである」(CMJの人談)(ツールの問題)
- ハンコの目的が変わる:認証からアピールへ(用途の問題)
- ハンコ業界のビジネスモデルが変わる(ビジネスの問題)
- 社員の認識方法が変わる:社員番号で紐づける(なりすましができてしまう)(セキュリティの問題)
このように「ハンコ廃止による新たな経験」には様々な問題がからみあう。これは「DXによる新たな経験」と読みかえても同様である。つまりDXは単なるデジタル化ではないのだ。
トヨタはコンシューマ世界のDXを「WOVEN CITY」で実証しようとしている[1]。ではビジネス世界のDXは「バーチャルオフィス」なのか。
ガートナー社の「デジタルビジネス」では究極の姿を次のように定義している[2]。
仮想と物理の世界を融合して人/モノ/ビジネスが直接つながり、顧客との関係が瞬時に変化していく状態が当たり前となる
人/モノ/ビジネスが直接つながったオフィスでは、社員はつねにオフィスにいる必要はない。つまり"出社"の概念も変わるであろう。
ここで「オフィスのバーチャル化」という問題が持ち上がってくる。"バーチャルオフィス"や"バーチャル出社"というワークスタイルはどうなのであろう[3]。
バーチャルオフィスとはIBMが2009年に発表した「Sametime 3D」の概念を拡張したものであるといえる[4]。
オフィスをバーチャル化するサービスも提供されつつある[5]。
だがなにもオフィスをバーチャル化するだけが解ではない。
慣習やプロセスを変えるという意味では、私は"ハンコをもらいに行く"というよりも"ハンコを押しに来てもらう"方が良いと思っている。押印タスクのリクエストがマネージャに届くイメージである。
「もらいに行く」から「来てもらう」と発想を変えるだけでもプロセスやツールは大きく変わるしそれがDXである。
そのようなワークフローをG-Suiteのようなオンラインアプリで組めばハンコの置き換えはたちまち実現する。なにも高価な電子署名などを組み込むまでもない。
オフィスで通常使用するハンコは「三文判」だが、これはオフィスチャットで「いいね」をするレペルで十分であろう。メールで「承認」という空メールをもらってもいい。
オンラインのワークフローで考えなければならないのは、「登録印」で行う契約などのフローである。
ハンコの廃止は"ハンコで同意を求める古い慣習を改める"ということだと言える。DXも"アナログに頼る古い慣習をたちきる"ことと考えれば課題も見えてくるのではないか。
ButcherC - By scanner., CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=81115898による
参考情報:
[1] 『トヨタ、「Woven City」地鎮祭を実施』 - https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/34827665.html
[2] 『ガートナーが伝える デジタルトランスフォーメーション(DX)推進へのアドバイス』 - https://media.mar-cari.jp/article/detail/1373
[3] 『リモートワークのニューノーマル!?VRオフィスとは』 - https://www.rakudo.io/blog/index.php/2020/07/30/vr-office/
[4] 『IBM,3D仮想会議室サービス「Sametime 3D」を開始』 - https://xtech.nikkei.com/it/article/NEWS/20090625/332532/
[5] 『よりリアルに使い在宅勤務を実現 - バーチャルオフィスを体験』(広告) - https://www.ten-nine.co.jp/sg4u/?gclid=Cj0KCQiAyoeCBhCTARIsAOfpKxipsyfCXTAnpPMuzIuar3pCO_ALIL2W_8iL11Lju-OmWMkj2RcY3zwaAus4EALw_wcB