フードロスとUX

出された料理を完食するのは下品?

「残さず食べるのは失礼?大人なら知っておくべき、海外のテーブルマナー」というコラム[1]には、少々疑問を抱かざるを得ない。中国では少し残すのが礼儀だと言う。昔はそういうこともあったかもしれないが、フードロスが問題になっている昨今、礼儀とか品を理由に料理を残すのは問題だと思う。

農林水産省の資料によると、一人当たりの食品廃棄物 発生量は英米がダントツだが、その後は、オランダ/フランス/ドイツ/日本が多い順となっている[2]。日本はもっと上位になのかと思っていたが意外と低く6位である。

ところが、食料の輸入依存度は韓国よりも低く先進国最下位なので[3]、相対的に輸入食料を多く捨てていることになる。5800万トンを輸入しその内1940万トンを捨てているという情報もある[4]。どうしてそんなに多いのか、その主な要因は「食べ残し」である[5]。

フランスパリでは、料理を残すのは味に満足しなかったと言うサインになるそうである。このような感性も考慮すると、フードロスを無くすために一人ひとりができることは「出された料理は全て食べる」ということではないだろうか。つまり「完食」である。(食の細い人はレストランへタッパを持参する?)

フードロスのような社会問題に対してはSCD(Social Centered Deisgn)が必要となる。フードロスをSCDという視点で考えると、フランスの「共同冷蔵庫[6]」はとても良いサービスであると思う。

「共同冷蔵庫」は、お店の入口の外側に設置した冷蔵庫で、不要になった食材や賞味期限切れの食品を保管する場所である。食品は誰でも持って帰れるのだが、やはりホームレスが多いらしい。フランスを起点に欧州全体に広がり、インドでも試行されている[7]。スペインでは「連帯冷蔵庫」と言われている[8]。

フードロスは売る側にも問題がある。よく言われる「3分の1ルール」だ。"賞味期限の3分の1までを小売店への納品期限、次の3分の1までを消費者への販売期限とする業界の商慣習"[9]ということで、その間に、返品や廃棄処分がたくさん出る。消費者の方も、同じ値段なら新しいもの(消費期限が先のもの)を買う傾向にあるから、お店でも売れ残りがたくさん出る。値引きすれば売れるのだが、値引くタイミングは難しいだろう。それを支援するサービスがAIを活用した「ダイナミックプライシング」である。

「ダイナミックプライシング」とは、需要に応じて価格をフレキシブルに変更するシステムなのだが[10]、これを導入すると10%位は廃却食料を減らせると言われる。SCD(Social Centered Design)とAIの組み合わせは、もっと展開できると思う。

三井住友ファイナンシャルがヤマサやマクドナルドと行ったSODでは、食材の残り物を使った料理教室などを催し子供達を招待して「サルベージ・パーティ」なるものを行ったりしている[11]。これはフードロス教育であり、フードロスを個人レベルで減らす課題のコワーキングであり、新しいサービスを事業化する試行錯誤である。

フードロスに取り組むスタートアップなども出てきており[12]、人的・金銭的な資源に余裕のある大企業が、例えばAIエンジンなどを提供しつつ彼らとSCDに取り組むというもの手である。

消費者庁もフードロスに対しては問題視していて、色々な取り組みを行っている[13]。大企業の責任という意味では、SCDという観点で、消費者庁のプロジェクトなども利用しながら、またスタートアップや他業界のパイオニア企業を巻き込みながら、フードロスのような社会問題に取り組むべきなのではないだろうか。


"lesfrigossolidaires"さんのインスタグラムより引用(https://www.instagram.com/lesfrigossolidaires/

参考情報
[1] 残さず食べるのは失礼?大人なら知っておくべき、海外のテーブルマナー> https://www.mashingup.jp/2015/03/044965table.html
[2] 「業系及び家庭系の食品廃棄物発生量、再生利用量の主要国比較」(平成24年度推計ベース)> http://www.maff.go.jp/j/shokusan/recycle/syoku_loss/pdf/hyou2.pdf
[3] 「農林水産省 食料需給表」 >http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/fbs/attach/pdf/index-8.pdf
立憲民主党「耕す文化」> https://www.sasaki-takahiro.jp/5_7_5/785/
[4] 「日本の食糧廃棄率は世界一~年間5800万トンの食糧を輸入しながら、その3分の1の1940万トンを捨てている~」> http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=273392
[5] 消費者庁「まだ食べられるのに捨てた理由」> https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/pamphlet/pdf/pamphlet_181029_0004.pdf, *より詳しい記事はこちら> https://www.identites-mutuelle.com/lesfrigossolidaires
[6] 「パリ18区から~共同冷蔵庫で食品をシェア」> https://ameblo.jp/lifeinfrance/entry-12359193002.html
[7] 「迷惑どころか「賞賛の嵐」。レストランが店先に冷蔵庫を設置した、ただひとつの理由」> https://tabi-labo.com/256443/nanma-maram
[8] 「食べきれなかった料理を街の人とシェア。スペインの「連帯冷蔵庫」とは?」> https://www.huffingtonpost.jp/2015/08/18/spanish-communal-fridge-to-fight-food-waste_n_8002318.html
[9] 「「食品ロス」の一因は「3分の1ルール」 日本の悪しき習慣とは?」> https://dot.asahi.com/wa/2017032300091.html?page=1
[10] 「ダイナミックプライシングとは?企業への導入事例と日本への影響について」
https://orange-operation.jp/posrejihikaku/pos/18092.html
[11] 「フードロスを減らすために、今、できること」> https://www.smfg.co.jp/responsibility/report/topics/detail02.html
[12] 「食糧危機・フードロス問題に取り組むスタートアップ8社」> https://thebridge.jp/2017/08/201707the-bridge-x-lab-201707
[13] 「フードロス・チャレンジ・プロジェクト ご紹介 - 消費者庁」> https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/exchange_of_opinions/pdf/140226_siryo1-2.pdf