パーティシパトリーデザイン
Published by 松原幸行,
パーティパトリーデザインを理解する方法として,エスノグラフィ調査なども含めたユーザー理解のための一手法と見るみかたと,デザイン手法の一種と見る見方とがある.前者はMuller and Kuhnのアプローチ(1993)であり[1],後者は「コ・デザイン(Co-Design)」としてくくることができる.そして両者は,「共鳴連鎖型コラボレーション」というワークスタイルでもある.
Muller and Kuhnのマップによると,開発の川上から川下まで,いたるところで姿形を変えてユーザーに参与(Participation:パーティシペイション)することができる.その際に,デザイン・開発サイドにユーザーを招く方法と,デザイナーや開発者自らがユーザーの現場を訪れる方法とがある.たとえば「エスノグラフィ調査」は,開発の川上において,ユーザーの現場を訪れるものである.
コ・デザインの提唱者であるリズ・サンダース(Liz Sanders)氏らは,コ・デザインを“エンドユーザーとデザイナーや開発者の協働"という意味で捉えている[2].だが,私はもう少し広く捉えるべきであると考える.元々は,ハードウェア設計とソフトウェア設計の「協調設計」という意味を持つからである.つまり当事者としては,3つの形がある.
1.同分野の専門家同士
2.異分野の専門家同士
3.エンドユーザーと開発当事者の協働(リズ氏らの説=パーティシパトリーデザイン)
エンドユーザーとの協働と言っても,エンドユーザーがいわゆる専門的なデザインニングをできるわけではないので,“日常からアイディアを発想する"というスタイルになるのは否めない.その意味では,課題なども限定されるが,インサイトを引き出す意味においては効果がある.その意味では,いきなり本題のアイディア出しなどせず,まず「桃太郎を破壊する」などで頭をほぐすなどする(http://hideyuki-matsubara.postach.io/post/aeteinobeshiyon を参照).
コ・デザインを突き詰めて行くと、マーケティングのMROC(エムロックと読む,Marketing Research Online Community[3])とか、いわゆる実践型コミュニティの話になって行く。工学やデザインからは少し離れた領域のHCDである.パーティシパトリーデザインは日本では難しいので、サービス開発にはこちら(MROC)の方が即効力がある。なぜパーティシパトリーデザインが難しいかというと,まず習慣がない.日本で行うと直ぐ顧客訪問,つまり“話を聞く"という形か,せいぜいユーザビリティ評価という形になってしまう.とにかくコンダクトできる人がいない.ちなみに,いわゆる開発者が行う「顧客訪問」は人間中心ではなく,開発中心であると言われる.開発者が自分たちに都合が良いことだけをつまみ食いする傾向にあるからである.
ワークスタイルの面から考えると,パーティパトリーデザインは「共鳴連鎖型コラボレーション」ということになる.つまり,共に考える場を持ち,共創・協調して,連鎖的な発想を行うワークスタイルである.デザイナーはワークショップやアイディア合宿という名で良くやっているが,問題は,異分野の専門家やエンドユーザーといかに共鳴連鎖する仕組みを構築するか,である.
パーティシパトリーデザインは仮説検証型ではなく,共鳴連鎖で行う探索である.デザイナーとユーザーが共鳴連鎖し両者で仮説を導く,仮説生成型でやるものである.マスタースレーブ[4]ではだめである.UXデザイナーは与件を持たず,盲点に目を向ける姿勢が必要である.教えを請うような謙虚さが必要である.その意味からも「顧客は師匠」とも言われる.
"wemakegood"のインスタグラムより引用(https://www.instagram.com/p/BjWuWcNFZVi/?hl=ja&taken-by=wemakegood)
参考情報
[1] Participatory design approaches https://www.researchgate.net/figure/Participatory-design-approaches-Muller-and-Kuhn-1993_fig1_241848737
[2] コ・デザイン https://keiei.proweb.jp/column/trendword/1/296/366/ 参考:FROM DESIGNING TO CO-DESIGN TO COLLECTIVE DREAMING: THREE SLICES IN TIME (by Liz Sanders, Pieter Stappers) http://interactions.acm.org/archive/view/november-december-2014/from-designing-to-co-designing-to-collective-dreaming-three-slices-in-time ※ここには,「2044年には全ての人がデザイナーになる」とか面白いことが書いてある.
[3] アメリカ発祥の新しいマーケティングリサーチ手法「MROC(エムロック) https://www.gmo.jp/report/single/?art_id=89
[4] マスタースレーブ:ボスがコミュニティを仕切るやり http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%96