ソーシャル・センタード・デザイン(SCD)とソーシャル・イノベーション

 人間中心ではなく,社会を中心に考えるものとして,ソーシャル・センタード・デザイン(SCD)というものが注目されている.SODは,一言で言えば「利他的な活動」である.様々な社会問題の関係者自らが主体的に解決を目指す取組みである.最近多くの企業や行政機関でも,SCDの取り組みが開始されており,「ソーシャル・イノベーション」という切り口で事業化されつつある(1).ソーシャル・イノベーションは,これからのCSR(corporate social responsibility,企業の社会的責任)における柱であるとこいえ,味の素,GE,ヤマトホールディングス,伊藤忠商事,パナソニックなど,多くの企業が取り組んでいる(2).

 その中で代表的な企業として,日立製作所と富士通がある.日立製作所のソーシャル・イノベーションは,デザインセンターの活動がベースとなっている(3).富士通なども早くから取り組んでいる(4).これら企業は,同時に,社会性を重視する中で先行提案型デザインを実践している.その中で,製品やシステムやサービスの価値追求に代わる新たな視点として,SCDに注力している.また,米IDEO社は,非営利組織であるIDEO org.が主体となり,人間中心設計のプラットフォームである「HCD Connect」を通じて,社会課題に取り組む場を提供している(5).

 SCDは,不安定な社会環境の中で安心・安全や環境問題を解決するものであり,根底には,ユニバーサルデザインやダイバーシティの問題(人種や年齢,性格,学歴,価値観などの多様性を受け入れてること)などがあり,サステイナブルな発展を促すものである.

 社会課題は,元々は地方行政が主体的に取り組むべきものなのだが,大きな政府への危惧や公助だけでは回らない状況などから,共助の一環として取り組む必要性が指摘されて来た.そのような背景を踏まえるならば,行政政策の民主化であるともいえ,組織のあり方としてはスケールアウト的なものであるとも言える.

 最近では,行政機関が主体となり,政策提言に市民参加を促す形でオープンミーティングやワールドカフェを行うケースも出て来ている.パイオニアである三鷹市を筆頭に,松戸市や横浜市などが積極的に取り組んでいる(2).これなども広義の意味ではSCDであるが,テーマは公共公益的なものや福祉的なものに限られる.一方で,注目すべきなのは,人と人のネットワーク的なアプローチである.この場合は,コミュニティ課題や個人的な問題から発展したものがテーマとなる.晩婚化やローカルコミュニティの衰退問題に対応した「街コン」やなどが有名である.

 SCDはまだ新しい活動のスタイルであるが,ソーシャルな関係が重視される中,今後ますます重要となるであろう.

"demarushurie"のインスタグラムより引用(http://bit.ly/2FyNFME

(1) ソーシャルイノベーションを仕掛ける
https://www.nri.com/jp/opinion/m_review/2007/pdf/nmr17-1.pdf
(2) ソーシャルイノベーションカンパニー調査報告書 http://bit.ly/2FvfAxj
(3) 日立のソーシャル・イノベーション「Hitachi SOCIAL INNOVATION FORUM 2015」 http://hsiftokyo.hitachi/2015/
(4) 富士通のソーシャル・イノベーション「ソーシャル・イノベーションの仕組みづくりと企業の役割への模索」http://bit.ly/2Fwiul8
(5) IDEOが人間中心設計の活動プラットフォーム"HCD Connect"を始動:http://frad-jp.blogspot.jp/2012/04/ideohcd-connect.html