細部に宿るサービス

「神は細部に宿る」という言葉がある。

英語では「God is in the detail」という。ドイツ バウハウス校の最後の校長で建築家のミース・ファン・デル・ローエ(Ludwig Mies van der Rohe)氏の言葉である[1]。

『STARBUCKS EXPERIENCE』という本の中に「Detail Occurs by Design」という下りがある。まさに<神は細部に宿るので細部まで慎重にデザインしなければならない>と言われているような気がする。

スターバックスは単なるコーヒーショップではない、とよく言われる。『STARBUCKS EXPERIENCE[2]』を読んでみても、経験を提供していることがよく分かる。

経験を提供する根幹にある原理・原則(原著ではPrinciples)を5つにまとめている。

日本版の訳では「成功法則」としているがちょっと違和感がある。「法則」というと、なにか外在しているルールのような感じがする。

著者でありコンサルタントのジョセフ・ミシェリ(Joseph A. Michelli)博士が言っているのはもっと内包されるべき原理・原則のようなことだ。

その5つの原理・原則の中に「Make it your own(自らを成す)」というものがあるが、その成すべく行動規範として5つあげている。

その5つの行動規範は次の通りである。

  1. 心から歓迎すること
  2. 本物であること
  3. 深い思いやりを持つこと
  4. 豊富な知識を持つこと
  5. 自ら関与すること(傍観しないこと)

「Five Ways of Being」というが、アメリカ人は5つが好きである。行動の細部を決めるには5つくらいの規範がほどよいのであろう。

この5つの行動規範は、原理・原則や ビジョンとともにグリーンエプロンブック(Green Apron Book)という小さな冊子にまとめて全従業員(スターバックスではパートナーと称している)に携行させている。つねに実践できるようにしているわけだ。

他の原理・原則に「Suprise and Delight」というのもある。「驚きや喜びを提供する」ということだが、この概念自体は100年も前からあるもので目新しくない。様々な企業が驚きや喜びを与えることをスローガンに商品開発してきた。

しかしそれらは後付けのサクセスストーリーであったり、商品戦略を表現したスローガンという場合もある。スターバックスが違うのは、それが単なるスローガンではなく、サービス提供の細部にまで徹底していることだ。

スターバックスのバリスタは、お客をファーストネームで呼ぶし、アイスクリーム・デイ(そういう州の記念日がある)には、わざわざアイスクリームを取り寄せて無料配布するし、店先でたまたま転倒した顧客がいれば商売そっちのけで介抱する。

このあたりはリッツ・カールトンホテルのキャストの対応と似ている。コーヒーを販売する側と購入する側という冷たい関係では無くすることを目指しているようだ。

このように、サービスを細部にまでデザインする(企画し作る)には、サービス提供者の行動を細部にわたり見直し正しいものにするところから始めるべきではないのか。何が正しいか正しくないのかを判断する基になるの がビジョンであるのはいうまでもないが。

なお、"サービスを細部にまでデザインした事例"は『こんなサービスが欲しかった![3]』にたくさん載っているので、事例を参考にしたい方はどうぞ。


Public Domain, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=288304

参考情報
[1] ミース・ファン・デル・ローエ - https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%92%E3%83%BB%E3%83%9F%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%A8
[2] 『The Starbucks Experience: 5 Principles for Turning Ordinary into Extraordinary』(Joseph A. Michelli、McGraw-Hill、2006) - https://www.amazon.co.jp/Starbucks-Experience-Principles-Ordinary-Extraordinary/dp/0071477845
[3] 『こんなサービスが欲しかった!―"惚れられる"サービスはここが違う』(Kristin Anderson、Ron Zemke、ダイヤモンド社、1999)