雑踏・盛り場・界隈の魅力
Published by 松原幸行,
雑踏は実に人間的な空間である.意味合いも「人が大勢いて込み合っている様子」だから,まさに人間実のある状態である.
同じ様な意味で「盛り場」という言葉がある.盛り場は「いつも人がたくさん集まっている場所」という意味であり,街区的に表現すれば「繁華街」である.コルビジェの弟子であった建築家の吉阪隆正氏は,潤いのある住宅街には「盛り場」の存在が必要であると述べている.また槇文彦氏は,代表作である「代官山ヒルサイドテラス」に盛り場的な要素を積極的に取り入れていて,今でもそのたたずまいは残っている[1].盛り場と住区が混在して融合し,成長し続ける環境である.
しかし凡人の自分には,盛り場は,平たく「飲み屋街」と言われた方がしっくりする.新宿ゴールデン街にはゴールデン街なりの猥雑さがあり[2],渋谷のんべえ街にはのんべえ街なりのノスタルジアがある.うがった見方をすれば,そういった場所も,人生に彩りを与え,程よく成長を促すようである.
雑踏を「界隈」と置き換えると,突然,文化的なおもむきを感じる.
界隈には2つの意味がある.1つは,いわゆる「〇〇地方」とか「辺り」を指すものである.「サンフランシスコ界隈では」とか「渋谷界隈で見つけた名店」などという表現がこれに該当する.ここには,「ゴールデン街界隈」という風に盛り場も含まれる.ただ,「盛り場」と言う時のくだけた感じは無い.
界隈の2つ目の意味は,「コミュニティ」とか「業界」に該当するもの.「○○の方からUX界隈の方に拡散してほしい」とか「タスク管理界隈では最も有名な技法の...」というようにである.
特に後者の界隈を念頭にして,「イノベーションに役立つ界隈性」という捉え方がある[3]."この界隈"には,ブリッジ[4]がたくさん存在する.ブリッジにより新たな越境的な連携が生まれるのだ.イノベーションを起こすためには,組織の中に界隈性を生み出すのも,案外良いのかもしれない.
タモリは「縁」とか「断層」が好きなようだが,私は「界隈」が好きである(^^).
"ba.nana479"さんのインスタグラムより引用(https://www.instagram.com/p/BsJwZr5lHmI/)
参考情報
[1] 「日本におけるアーバンデザインの到達点。ヒルサイドテラス」> http://zeitgeist.jp/zeitgeist/槇文彦-ヒルサイドテラス-中編/
[2] 「初心者に捧げる「新宿ゴールデン街」の手引き とりあえず、ここ行っとこうか。」> https://matome.naver.jp/odai/2141380685525875501
[3] 「21世紀のイノベーションに必要な「界隈性」」> https://dentsu-ho.com/articles/4854
[4] 「弱いつながりは強い 〜コネクションよりもブリッジ〜」> https://hideyuki-matsubara.postach.io/post/ruo-itsunagarihaqiang-i-konekushiyonyorimoburitsuzi