顧客セグメンテーションとUX
Published by 松原幸行,
「いきなり!ステーキ」が経営不振で、44店舗を閉店するとのことである。その原因は、ガッツリ食べたい顧客にセグメントを絞り過ぎたことにあるようだ[1]。
顧客を経営者の思いだけでセグメントしてしまうと、セグメントされていない、つまり"排除された顧客"は足が遠のくことになる。「顧客セグメンテーション」にはこのようなリスクがある。
顧客のセグメントは、顧客の属性部分に目が行きがちである[2]。つまり「経験」という視点に欠けるところがあるのだ。セグメントの意味合いはパッケージ化であり、商品やサービスをパッケージ化しその種類を絞り込み、効率よく提供しようとするところに価値を見出そうとする。ところが、個が重視されるこの世の中で、絞られたパッケージに価値を感じなければ、魅力が無いということになってしまう。
一方で、経験のパッケージ化もまた難しい。もし作るとしたら、カスタマイザブルにするしかない。つまり、オプションや選択肢を多様にし、顧客が自由に変えられる余地を残すのである。それも、一々顧客に選ばせるという"かったるい"ものではダメであり、経過ごとの感情の起伏や状況に応じて選択や追加を適宜サポートできるものが良い。AI技術のメリットは、この辺りにあると思う。
さて、セグメントされていない"排除された顧客"を生まないための方策であるが、まずは顧客をセグメントするという誘惑に囚われないことである。セグメントではなく、顧客が"したくなる経験"を考えることが大事なのだ。
"したくなる経験"はニーズではないから(ニーズとして顕在化しているものでない)提供者の想いと洞察が何よりも大事である。そして"したくなる経験"は常に変わるものなので、調査と顧客の理解は欠かせない[3]。この辺りは、デザイン思考プロセスの中の「定義」を「理解」にすべきであるというIBMの主張に賛成である[4]。
定義して終わってしまっては、いつしか顧客のインサイトと製品サービス提供側の定義の間にズレが生じてしまう。これが問題なのである。顧客を真に理解するのも、ズレをアジャストするのも、ユーザー調査という役割のなすところである。
ところで先に述べた「いきなり!ステーキ」の苦戦については、店先に、来店を乞う社長の直筆メッセージを掲げたようだが、どうやってこれを排除された客に伝えるのか、理解に苦しむ[5]。
このような場合は、インバウンドマーケティング[6]やSNSマーケティング[7]の出番である。行く気をそそるようなTipsやニュースやインセンティブ(クーポンなど)等々を撒き餌のように展開して、じっと待つしかない。飲食業は難しいものである。
"am_strategies"さんのインスタグラムより引用(https://www.instagram.com/p/BxI4QFdFE0D/)
参考情報
[1] 絶不調「いきなり!ステーキ」が気づかない外食集客の鉄則とは > https://diamond.jp/articles/-/223283
[2] 顧客セグメンテーションの基本と方法 > https://www.cloudtimes.jp/dynamics365/blog/customer-segmentation.html
[3] 一度した経験を二度三度としたくなるかどうかである。「いつものやつ」という感覚や安定性普遍性を価値とするのか、二度とない経験という意味で新規性を価値とするのかによっても変わるものである。このどちらであるかは、経験の前提として踏まえておく必要があるであろう。
[4] 調査グループがリードする「ユーザ コミュニケーション」> https://hideyuki-matsubara.postach.io/post/diao-cha-gurupugaridosuru-yuza-komiyunikeshiyon
[5] いきなり!ステーキ「お客様のご来店が減少しております」 社長直筆の「お願い」全店掲出へ > https://www.j-cast.com/2019/12/10374778.html?p=all
[6] インバウンドマーケティングとは? 5分でわかる総論と実践のポイント > https://innova-jp.com/5min-to-learn-inbound-marketing/
[7] 【初心者向け】SNSマーケティングとは?意味と特徴を分かりやすく解説! > https://www.internetacademy.jp/it/marketing/web-marketing/sns-marketing-def.html