ナラティブとパーパス

最近「ナラティブ」という言葉をよく聞く。"自伝的な物語"とでもいう意味だが、このナラティブについて、キヤノンのデザイン組織に所属する金谷氏からの投稿がありました。是非お読みください。

ナラティブ経済、ナラティブマーケティング、ナラティブカンパニーなど、ナラティブという言葉を聞くことが増えてきた。

臨床心理学などではナラティブアプローチという「相談者自身が語る物語を出発点として問題を解決するきっかけを見出す手法」が使われているようだが、近年はマーケティング等にも活用され始めている。サービスデザインの海外の活動などでは、ナラティブを使用する例がみられることも多くなっている。

ナラティブは日本語では「物語」と訳される。近いものにはストーリーがあるが、では、ナラティブとストーリーはどう違うのか。ナラティブの意味をきちんと理解し、腹落ちしているかというと、なかなか自信が持てない。そこで、この機会に少し調べてみた。

本田哲也氏による、ナラティブカンパニー[1]という書籍をはじめ、Webページなどを調べてみたところ、大体、以下のような感じである。

  • ストーリーは起承転結がしっかりしており、終わりが決まっているが、ナラティブは終わりがない。
  • ストーリーは何かを伝えるためのものだが、ナラティブは主人公の内面を掘り下げ、淡々と続いていく。
  • ストーリーの主役は企業、に対して、ナラティブの主役はユーザー。ストーリーは筋書き。ナラティブはより自由に語られるもの。
  • ナラティブは社会全体を舞台にしており、共感を持って多くのユーザーが参加できるものである。

Appleの1984年独裁社会からの解放のCMを例に取り、それを逆手に取ったEpic gamesのCMでは、2020における独裁者はAppleであるというナラティブで共感を呼ぶ手法など、興味深い。

ナラティブはユーザーひとりひとりに寄り添い、それぞれを主役とする物語を紡ぐことでより共感を強く与え、ユーザーも深くUI/UXに参加してもらうことができる。臨床心理学的なアプローチを参考にすれば、それぞれのユーザーが抱える課題を物語を使って深堀し、改善の物語へ導くことができる。企業側からの視点ではなく、使う人側が主役となる複数の物語を紡ぐことでより共感を深めることができる。という風に理解した。

企業マーケティング等でナラティブを作るときには企業のパーパスが必要で、その重要性も説かれている。

企業のパーパスといえば、パタゴニア[2]が有名であるが、SONYは2019年に次のようにパーパスを設定しなおしたそうだ。
「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」[3]

このパーパスがSONYの業績回復の重要なキーファクターとなっていると感じる。企業のパーパスが共感を呼び、企業価値を高めていくのである。

将来が見通せない、VUCAの時代。将来に対する不安を感じ、明るい未来を描くことが難しい。せめて自分の希望、社会の希望を叶えてくれる企業に賭けたいというユーザーのニーズが高まっているのではないか。

そんなユーザーのナラティブを巻き込むことで企業のパーパスを実現していき、よりよい未来を実現していくという時代がきているのではないだろうか。(著:金谷有美子) 

コメント:
経験を「物語(ストーリー)」としてみると、より個人的なものを「ナラティブ」、より事業的なものを「ストーリー」、と分類できそうである。さらに研究的には「コンテクスト」も外せないものである。コンテクストは「テクスト」、すなわち「事実」の連なったものであるから、テクストを一つの流れで読み解くとストーリーができあがる。この辺りも参考に読むと良いと考える。(松原)

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By Reinhold Möller, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=98219797

参考情報
[1]『ナラティブカンパニー―企業を変革する「物語」の力』(本田 哲也、2021、東洋経済新報社)
[2]「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」(アクティビズム | パタゴニア | Patagonia)
[3]「Sony's Purpose & Values」(ソニーグループポータル )