能動的な人工物
Published by 松原幸行,
地球という惑星と、人と、植物で共通する事は何か。全てが自然物であるというのは勿論だが、 もっと具体的な事象がある。それは「常に自ら動いている」ということだろう。
地球は自転しつつ太陽の回りを公転しているし、植物もたえず光合成を行いながら成長を続ける。しかも季節の変化に合わせて開花したり落葉したりする。
人は眼球を絶えず高速(25ms程度)で動かし、光を脳に取り入れている。この運動を「サッカード」といって、高解像度に対象物を認識するために必要なものだそうだ。意思で止めることはできない。静止した世界を眺めている時に視覚が消えてなくならないのはこの微細な眼球運動のおかげである。
自然と調和する人工物というものがあるとすれば、それは「常に自ら動く」という機能が備わっているということかもしれない。
人工物の方を見てみよう。
例えば、フラクタル造形は幾何学的なものだが、無限に成長しているように見える[1]。
また、ちょっと古いが今でも強烈に印象に残っているのは、オーストラリアの現在美術作家パトリシア・ピッチニーニ(Patricia Piccinini)氏の作品「Plasmid Region(幹細胞のある静物、2003)」である。この22分あまりの動画は、まさに生命体の細胞運動か深海生物のようだ[2]。
クワクボリョウタ氏のインスタレーション「The Tenth Sentiment / 10番目の感傷(点・線・面)」も、単に影絵というノスタルジックな印象に留まらない、生命力を感じさせる[3]。
2013年の文化庁メディア芸術祭では、倉田稔氏の「勝手に入るゴミ箱」が、エンターテイメント部門 優秀賞を授賞した[4]。ここでは、あたかもゴミ箱が意思を持っているように勝手に動いて自らゴミを受け取りに行く。
やはり"動く"という要素は、人工物を魅力的にするのであろうか。
そんなことを考えながらウェブを見ていたら、『人工物に対する意図性の付加が機能発現に及ぼす影響』と題した面白い論文が見つかった。「人間に理解されやすい人工物の行動」を研究している岐阜大大学院 寺田氏らのものである[5]。ここに登場する能動的な人工物は椅子である。コンピュータやセンサーや全方位カメラなどが備わっており、人間の座りたいという欲求を察知して、自ら能動的に人の方に動いてくる。そのような椅子の受容性を知るために実験を行っている。
結論から言えば、人間の意思や欲求と調和する"人工物の能動的な動き"には、まだ未解な部分が多い。
今後、AIが進化するにつれ人工物がさらに高度な知識を獲得した末には、違和感なく共存する「人工物の能動性」なるものも見出せるであろう。AIにはそのような役割も期待する。
はたして、レベル3の自動運転車は、 人間と調和する魅力的な人工物になるのだろうか。
A Google self driving car drives past a double-deck commuter bus at Google's headquarters in Mountain View, CA, USA.:Michael Shick - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=44405988による
参考情報
[1] Dimensions 6 Japanese:フラクタルの原理を日本語で説明している > https://www.youtube.com/watch?v=lmoAmV1eckg 変形を高速で3D表現したもの > https://www.youtube.com/watch?v=JHRPWVwjvBY
[2] Plasmid Region, 2003 >https://www.mca.com.au/artists-works/works/2009.86/ Youtubeに一部あり > https://www.youtube.com/watch?v=44Zj1Wcbtmw
[3] The Tenth Sentiment / 10番目の感傷(点・線・面)> https://www.youtube.com/watch?v=8EBF0qOKpns
[4] 勝手に入るゴミ箱 > https://www.youtube.com/watch?v=Jx_LnNG3Rv8
[5] 人工物に対する意図性の付加が機能発現に及ぼす影響 > http://www.ii.is.kit.ac.jp/hai2011/proceedings/HAI2006/pdf/1a-3.pdf