従業員経験を高める
Published by 松原幸行,
顧客の経験(User eXperience:UX)が広がりをみせている.その一つが従業員経験(Employer eXperience:EX)である.
サービス事業で成功するには,結局はそのサービスに従事する従業員の経験価値が高く,継続して満足しているかいないかが重要となるという.
2010年頃から,従業員満足度(Employer Satisfaction:ES)が重要視され流ようになってきた[1].満足度が高いと労働生産性が上がり,ひいては業績も上がるというロジックである.当初は福利厚生面とかフレックスタイム制の導入などが主流であったが,どうもそのような間接的な施策では,満足が継続しない.本来は,仕事をする日々の経験の中に解があるべきで,その意味から「従業員の経験」が注目されている.
例としては,「従業員の健康状態が良い」「良い人間関係が尊重されている」「組織との一体感がある」など,従業員が感じる安心感や納得感などがあげられる.これ以外にも「IT機器が充実している」「ストレスの無い情報システムが運用されてる」など,経験価値の定義は組織内で考慮されなければならない.経験価値が考慮されることで,結果的に,働く事に価値を感じるようになり,ひいては会社や組織へのエンゲージメントが高まる.つまり高いESが継続し,業績向上に結びつくのである.
例えば,あのスターバックスには接客マニュアルが無いにもかかわらず,スタッフの接客品質はひじょうに高いと感じる[2].コーヒーの味や厳選されたBGM(専任のミュージックコンピレーターがいる)は勿論だが,感じの良い接客もご贔屓になる一因である.「おもてなし」で考えると,アメリカ的ではなく日本的に近い(持論:
アメリカのおもてなしは“型",日本のおもてなしは“人").スタバには「グリーンエプロンブック」というクレド(ビジョンではなく,どういうサービスを目指すのか,大事な心構えなどが書かれているカード)があるのだが,かなりの裁量を与えているのも大きな要因である[3].裁量が意欲を高め,自ら「パーソナルサービス」を生み出しているのである.その結果,いつ行っても満員,という状況が生まれる.
今,経営者やマネージャーは,従業員経験を高めることが重要であると言われ始めている.単に自主性を重んじるというのではなく,まして上意下達ではない."自主性を重んじる"とはややもすると「世間体の良い放任」ともなり得る.視点を変えて,「従業員の経験は良いものか」を真剣に考えることに意味があるのである.これからは,「EXの高い会社が良い会社」と言われるようになるのではないか.
参考情報
[1] なぜ、会社は従業員満足度の向上に着手すべきなのか?経営コンサルタントに訊く、「ES」の重要性 http://work-switch.persol-pt.co.jp/employee-satisfaction/
[2] マニュアルがない?スターバックスの感動サービスは“考える接客"からきていた https://www.tenpo.biz/tentsu/entry/2017/09/08/103000
[3] スターバックスの接客の良さの源は何にあるのか https://blog.tinect.jp/?p=16951