CXプロジェクトの成功率を上げる

最近は、UXではなくCX(Customer eXperience、顧客の経験)を使うシーンが増えている。もともとUXデザインはマーケティングとの親和性が高いわけだが、マーケティングは「顧客」への意識が高いためCXの方が通りが良いのだ。このCXの言葉を使う中では「CXデザイン」とは言わない。CXを高める方法はデザインだけでは無いからだ。

ところで、米国Sitecore社のCMOであるペイジ・オニール(Paige O’Neill)氏の調査では、米国で95%がCXの改善が急務だと認識しているが、自社がCXで成功していると見る企業は11%に過ぎないという[1]。それだけ顧客へのリーチは難しいわけだ。

ガートナージャパンの調査でも似たような結果が出ており、「CXプロジェクトが進行中/稼働済み」と回答した企業の割合は全体のわずか6.6%で、「検討中」を含めても17.4%と、取り組んでいる企業は全体の2割弱だったそうだ[2]。取り組み自体が2割であれば、成功例はもっと少ないであろう。CXをコンサルする責任を痛感しているが、もっと若い人(UXデザイナー)に頑張って欲しいとも思う。

そのCXを考えるとき、商品選択の基準が変わってきているという。

本コラムのテーマである「できないことで比較する」というのは、商品がマチュアーになってきた昨今、あるいはコモディティー化が進む中で、できることが多くなり、できないことを探した方が差を見つけやすい。そしてできないことがある商品(製品サービス)は候補から落ちていく。

ここには、顧客サイドの<本当にそれが欲しいのか>というインサイトの問題もあるが、企業側の<自社でしかできないこと>を見出す努力の問題も大きい。自社でしかできないことが、顧客のインサイトにかなっていれば良いが、単にユニークなだけ、という独りよがりな状況もあり得る。ここらあたりが難しい。

結論から言えば、次のような手順が必要だ。つまり、

  1. できるだけ先行UXデザインを行い、
  2. できるだけ顧客を巻き込んでコ・デザイン(Co-design)を行い、
  3. インサイトとのミスマッチを回避する

CXプロジェクトの成功率が低いのは、この中の2、コ・デザインをうまく取り入れられたかどうかがキーポイントとなる[3]。そしてこのコ・デザインは、でき上がったものを見せる(完成後からスタート)ではなく、開発中から見せることが重要である。これは「協調設計」という。

協調設計の一つにMROC(Marketing Research Online Community)というものがある。リクルートや楽天が盛んに行っている。流れはだいたい次のようなものである。

  1. 冒頭のキックオフから顧客の代表者を招き、プロジェクト計画の討議する。
  2. コミュニケーションのプロトコル(使用するツールや投稿ルールやメンバーなど)を確認する。
  3. チャットツールなどを使用して、オンラインで討議を重ねる。

MROCのメリットは、代表者とはいえ顧客の生の意見を聞けることである。デメリットは、ファシリテーションの優劣により結果が左右されることと営業機密の漏洩リスクがあることである。前者は、ファシリテーションの経験を一つひとつ重ねるしかない。後者は、NDA(Non-disclosure agreement、秘密保持契約)を取り交わす必要がある。

CXが普及する道のりは長いが、コ・デザインの事例などに注力しながら、着実にこなしていくことが重要である。

Kannika Thaimai (WMDE) - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=84101424による

参考情報
[1] マーケティングが直面する「不都合な真実」--デジタル変革への礎をどう築く?> https://japan.zdnet.com/article/35147066/
[2] CXに取り組む企業は全体の2割未満--ガートナー・ジャパン > https://japan.zdnet.com/article/35149013/?tag=wpnew7
[3] コラム「パーティシパトリーデザイン」参照 > https://hideyuki-matsubara.postach.io/post/pateishipatoridezain