シンプル イズ “NOT” ベスト
Published by 松原幸行,
シンプルとは「簡素で単純なこと」である(デジタル大辞泉)。シンプルなデザインとは「単純なさま」である(大辞林 第三販)。簡素で単純であればシンプルなのか。ケンブリッジディクショナリーによると「難しくないこと(easy to understand or do; not difficult)」となっている。
かのジョン前田(John Maeda)氏は、シンプリシティーのためには徹底的な削減とSLIPが大事だと言っている[1]。SLIPとは、Sort(分類)、Label(命名)、Integrate(統合)、Prioritize(優先順位づけ)のことだ。ラベル付けして統合分類し優先付けした結果がシンプルということで、徹底的に試行錯誤することが不可欠だと言える。けっしてササッと簡単に成し得るものではないのだ。
確かに簡素で単純にすれば一見難しくないように感じる。最初に与える選択肢は少ない方が良く[2]、4つ程度が良いということからも、"敷居の低さ"は必要だろう。でも、水溜りぐらいなら簡単に飛び越せるが、多摩川ぐらいになるとそうはいかない。複雑なシステムを練り上げ最初の選択肢を4つにするのは、そう簡単ではない。
このような"複雑だがシンプルな美"は京都の桂離宮や日本伝統工芸展などに行けば一目瞭然であり、日本文化の中に数多く見られる[3]。
Samsungの「One UI」というコンセプトがある[4].
これを見ていると、角Rのある長方形と丸いボタンのアレンジが、アプリを超えてどこまでも統一されていて、小気味良い。ただ、どうもグラフィックスだけを問題にしているのではなさそうだ。
このOne UIでは、ユーザーが必要な時に必要なものだけを出すそうである。ということはWYNIWYG(What You Need is What You Get)である。確かに、的確にWYNIWYGをやるには、きめ細かくシステム動作を考えなければならない。つじつまが合わなくなったら、かえって混乱して分かりにくいものになってしまうからだ。これをリードするのが「UIアーキテクト」だ。ところがUIアーキテクト不在のUXデザイン組織がまだ多い。逆に言えば、UIアーキテクト(またはシステムアーキテクト)がいないと、"真にシンプルなUI"はできない、とも言える。
最後に再びジョン前田だが、TEDを見ていると面白い比喩があった[5]。雲も何もない40%グレイの空はとてもシンプルである。反面、まだら雲が夕焼けに染まった空はとても複雑だが魅力的である。シンプル=美しい、とはいかない良い例ではないか。
ところで、システムエンジニア出身で私のゼロックス時代のメンターN氏は、御自身をヒューマンセンタード・アーキテクトだと言っていた。なかなか魅力的な肩書きである。
参考情報
[1] THE LAWS OF SIMPLICITY > http://lawsofsimplicity.com
[3] 株式会社 SIMPLICITYのページ。> https://www.simplicity.co.jp/corporate/ja/
[4] 「One UI」> https://www.samsung.com/global/galaxy/apps/one-ui/
[5] TED「ジョン前田のシンプリシティーについて」> https://www.ted.com/talks/john_maeda_on_the_simple_life?language=ja#t-5726