ストーリーで始まるUXデザイン

「UXデザインの本質」についてはすでにさまざまな書籍やコラムで取り上げられているのでいまさらここで繰り返すことも無いような気がするが、<そういえばまだコラム化していない>、と気がついたので改めてコラム化しておくことにする。

特に「UI/UXの改善」というような"UIとUXの併記"に対する問題の指摘とか、UXデザインのプレイヤーの変化と対象の拡がりへの対応とか、社会性の問題などなど、さまざまな問題も絡み合っている昨今であるので確認の意味もある。

悩ましき周辺問題のポイント:
  • UIとUXの併記是非
  • UXデザインのプレイヤーの変化と対象の拡がりへの対応
  • 社会性への対応

1.UIとUXの併記について
これは、併記するのはUIとUXを混同しているとする意見と[1]、UIとUXの両方とも問題なので課題の把握という意味からは併記が正しい、とする意見が存在する。両者の意味は違うが課題は両方にある。一体どう解釈すれば良いのか。

前者は分けて考えるべき(UIの延長がUXでは無い)というスタンスであり、後者は入れ子関係こそわきまえるべき(UIをコンテクスチャルに考えるにはUXという視点が欠かせない)というスタンスである。つまり、実際に混同していて区別できない状況は論外だが、言っていることはどちらも正しい。スタンスを踏まえるべきである。

そもそも「混在」と言うと語弊がある。しいて言えば、UXの中にUIが組み込まれた"経験ストーリー"を記述したものがジャーニー・マップである。

ちなみに「/」の意味は「and, or」、つまり「A/B」とすると「Aのみ」「Bのみ」「AとBの両方」の3つを含むことになる。

2.UXデザインのプレイヤーの変化と対象の拡がりについて
ここにはUXデザイナー自体の役割が変化するという観点[2]と、そもそもUXデザインには多様な人材が必要である(UXデザイナーだけでUXデザインを行うのではない)という観点[3]が混在している。対象についても、ユーザーを「顧客」ととらえるか「利用者」ととらえるかによって立場が異なる。

AIが進化すると共にUXデザインが普及していく中で、UXデザイナーの役割も必然的に変化する。ジョナサン・ロビヤー(Johannes Robier)氏のコラム[4]にも「シームレス」という言葉が登場するように、サービスはどんどんシームレス化していくし、シームレスでなければならない。その「シームレスな経験」をUIデザイナー、もしくはUXデザイナーだけでデザインできると考える方が間違っている。

つまり、個々人が専門性を磨くとともに、"誰と組むか"がとても大事になってくる。

ユーザーか顧客かという問題。UXをビジネスに当てはめれば「顧客の経験(Customer eXperience:CX)」と言ってしまった方がスッキリする。某企業での実話だが、<UXではどうも社内で理解を得にくかったが、CXと言ったところ皆がふに落ちた>そうである。企業内では「顧客」という言葉は大変強い。

一方、病院などをでは利用者は患者であり「患者の経験(Petient eXperience:PX)と言った方が対象が明確になる[5]。学校であれば「学生の経験(Student eXperience:SX)」であり、ライブであれば「聴衆の経験(Audience eXperience:AX)」である。
それぞれに独特の"経験ストーリー"はある。

<ボランティア活動や即興的でソーシャルな行動における経験>が増えるという前提に立つと、ソーシャル・エクスペリエンス・デザイン(Social eXperience Design:SXD、社会的な経験のデザイン[6])とでも言うべきである。これなどはSDGs[7]への取り組みとともにさらに多彩な「対象」が存在することになるであろう。

3.求められる社会性
ビジネス主体に成長してきたUXデザインであるが、昨今は、国連で採択されたSDGs[7]やSCD(ソーシャル・センタード・デザイン[8])への関与を求められている。コラム『ソーシャル・センタード・デザイン(SCD)とソーシャル・イノベーション』で述べたイノベーションをSDGsに当てはめつつストーリー化することで、より社会的な経験デザインが実践できるものと考える。一例である。

  • 「貧困をなくす」
食品ロスを関連づけて「食のループ」づくりに参画できるような経験を生み出し提供する。

  • 「すべての人に健康と福祉を」
日常の運動と健康を維持するための食品10品目[9]を組み合わせて達成感を味わう経験など。

  • 「住み続けられるまちづくり」
まちを育てる活動を見える化し参加をうながすインセンティブをもうけ、教育を関連づけ、それらの活動をさらに動機付ける。

  • 「気候変動を踏まえて事前に具体的な対策を行う経験」
気候予測と産業への影響を具体的に予測して示し被害を最小限にするための産業間の連携(企業行動)をうながすような取り組み(社会サービス)が望ましい。

いかがであろうか。

まとめると、UXデザインの本質は、〈経験のストーリーを組み立てて機能として提供すること〉である。
なにはともあれ「ストーリー」がなければならない。そして「機能」の中には製品というハードな機能、サービス、人の役割などが含まれる。

Siddhant5 - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=87250917による


参考情報
[1] 『UXの本質について』(注:タイトルに「本質」とあるが一般化しにくい表現/内容となっている) - https://www.concentinc.jp/design_research/2014/05/the-essence-of-ux/
[2] 『UXの未来 – 次に来るものは?』(注:UIの視点から展望した「未来」が主に書かれている) - https://www.sociomedia.co.jp/7662
[3] 『これからのデザイナーに求められるもの』(注:インターネット・サービスという狭いスコープで語られている) - https://fullswing.dena.com/archives/7070
[4] 『The Future of UX – What's coming next?』 - https://worldusabilitycongress.com/the-future-of-ux-whats-coming-next/, (「AIの先生」には首を傾げざるを得ないが...)
[5] コラム『病院とPX』 - https://hideyuki-matsubara.postach.io/post/bing-yuan-topx
[6] 『Social Experience Design』 - https://www.slideshare.net/folletto/social-experience-design-20130127
[7] 『SDGsとは?』 - https://imacocollabo.or.jp/about-sdgs/
[8] コラム『ソーシャル・センタード・デザイン(SCD)とソーシャル・イノベーション』 - https://hideyuki-matsubara.postach.io/post/soshiyarusentadodezain-scd-tososhiyaruinobeshiyon
[9] 『10食品群シート』 - http://www9.nhk.or.jp/gatten/pdf/10hinmoku.pdf